「民意」と教職の専門性
大阪市長に就任した橋本氏は、「民意」ということばをさかんに遣う。「民意」に沿ってこそ民主主義国家だと。
ここに至って、「地域とともに歩む学校」論や「教職員と保護者の連携」論が、いともたやすく崩れることを目の当たりにする。そう、教職員、とくに校長や教諭は、「専門職」だからそこにいるのであって、かならずしも「民意」を反映させている訳ではないのだ。「今度の校長は外れ」と陰口をたたかれるのは、学区の住民や保護者が選んだ校長ではないからでもある。 民主主義なのに、どうしてそんなことが許されるかというと、「素人」にはできないことができる(はず)だから。つまり、学校という公教育は専門主義が部分的ではあれ、民主主義に優位すると見なされる社会セクターなのだ。 ここでやっかいなのは、いくら「民意」(選挙で負けた側に投じた人たちの「民意」は無視された)が大切とはいえ、「素人」の口出しできない領域では、専門主義が圧倒的に力を持つということだ。たとえば医療、「そこは切らんほうがええんとちゃう」と、たとえみんなが思っても、医師が判断すれば切除することもある。インフォームド・コンセントと患者の意志が重視されても、素人にわかることは限られている。最後には「お任せします」とならざるをえない。 これはある意味で当たり前(「餅は餅屋」)なので、「せんせい(専門家)」は「みんな(民意)」より強い。だが、「センセ」になると話がちょっと変わってくる。「センセ。ウチの子、なんで叱られたんや!」と質問なのか、抗議なのかわからない声も浴びなければならない。それどころか昨今は、すすんで「説明責任」を述べるありさまだ。 つまるところ、教職の専門性の内実がいつまでも確定されないから、「民意」とどう向き合うかを決めることもできないという話。だからこそ、専門職性(大学院を出ました、免許状は更新制です…)が専門性を置き去りにしたまま進んでいるのが、現下の改変状況である。 さて、教職の専門性についてどう考えればよいのか。 測定しがたい主観的な、また瞬く間に変化する不安定で儚いものが教育-学習の中心とならざるを得ないとすれば、測定可能な客観的、安定したものを対象とする、それゆえ再現性も担保できる科学性を議論の前提にはできない。むしろ、これを反転させて「かけがえのなさ(一回きりの大切さ)」と「認知よりも感情(記録よりも記憶)」をうながす場づくりに貢献できる職として教職を捉えることが、事実に対して整合的ではないだろうか。 民主主義を標榜するのだから、「民意」は最大限尊重されるべきだ。だからこそ、意見の分かれやすい領域には、「民意」の投影に忌避的であるという態度も大切、という逆説的な論は可能だろうか。そして、ここに「専門性」は、高い能力と倫理性をもつものと位置づけられるだろうか。
by walk41
| 2012-01-02 12:53
| 学校教育のあれこれ
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