公教育の「参入障壁」は下がるか
NHK「クローズアップ現代」、1月26日は「日本メーカー テレビ復活のカギは」。
ここ数年、サムスンやLG電子など韓国メーカーの躍進が著しく、日本メーカーはビジネスモデルそのものを見直さなければならなくなっている、と報じる。 そこで興味深く思ったのは、電子部品の低価格化に伴って、従来のように大きな施設・設備を持たなくても新規の会社が参入可能になった、つまり、参入障壁が下がってきているという話。一昨年だったか、自動車産業についても、同じことが報じられていたなと思い出したのだ。 既存の業界に新しい勢力が入ってくることで、「商品」は革新、刷新を求められる。たとえば電話、四半世紀前なら海外との電話はべらぼうに高く、容易に掛けられるものではなかった。1987年に初めてドイツを旅したとき、日本に15分ほど電話をしたが3000円くらい払った覚えがある。いまなら、Skypeで事実上、無料だ。 同じように、「恐くて入れない寿司屋」は「一皿100円の回転寿司」に、郵便はメール便に、よろず屋は「百均ショップ」に、また、旅館はビジネスホテルに、本屋はAmazonに、市中銀行はネットバンクにと、主役は交代した。時間がかからずに、安くて、快適なサービスを提供してくれるところに、顧客は移動していく。 この点で、学校教育に代表される公教育、とくに義務教育段階の公立学校はどうか。「教育は学校で決まりだ」と、新手にとって替わられることは絵空事と見ていてよいのだろうか。 さて、教員、学校管理職、教育委員会、教員組合のいずれも総じて、「子どもを育てるという、モノ相手の仕事ではないのだから、『企業』のようにはいかない」と呪文を唱えてここまでやってきた。 確かに、子どもがどう育ったかについて、資源の投入量や費やした時間から測定することはできない。その通りだろう。だからこそ、教員が長時間労働することが子どもの育ちにつながっているとは言えない、これも残念ながら当然のことである。 ならば、長時間労働は平均すれば、健康な心身に悪影響を及ぼすと言えるならば、できるかぎり始業と終業の時間で学校の仕事を終え、家庭、地域社会、個人の時間を設けるように、教員の働き方を変えなければならない。「子どもや保護者といった、相手のある仕事だからそう簡単にはいかない」と声が返ってくるだろうが、相手次第の仕事は他にもある。医者に診てほしい患者、一刻も早く届いてほしい荷物…。それでも、健康や安全、適正な生産量などを勘案して、「割り切って」調整しているのがほとんどだろう。 ところが、学校とくに教員は、この「割り切り」ができず(意思決定ができず、とも言える)、「終わるまでやる」からこそ、授業に必要なものを忘れたり、ちょっとしたことで子どもを強く叱ったり、教材研究が「ティーチング・マニュアル」を読むことに過ぎなかったり、と精力を傾注して仕事ができない条件を、みずから作り出してしまう。これで、「子どものため」と言ってよいのだろうか。新聞や本をほとんど読まず、「うちは片親家庭なんだ」と自嘲するような教員が、どれほど子どもの学習に貢献していると豪語できるだろうか。 法的に義務教育が定められていても、それが即、学校と決まっている訳ではない。学校に既得権を持つ精力が、それを当然視しているだけのことである。教育バウチャーやホームスクーリングなどが勢いを増すならば、つまり、参入障壁が下がれば、学校で提供されているサービスの「質」はいっそう問われることになる。既存の学校はこれに耐えられるだろうか。 いまですら、不登校の子どもの保護者に対して、学校教育法違反だからと罰金を取ることもできていない中にあって、学校の「強み」って何なのだろう。どんな「すごさ」を売りにできるのだろう。「公共事業において教育機関としての学校は必ずしも必要ではない」、そんな声がわたしにはちょっと聞こえるのだが。
by walk41
| 2012-01-27 13:35
| 学校教育のあれこれ
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