教員は「技術者」か
きょうの民放、「がっちりマンデ-」は”修理の神様、第2弾”。クルマのキズ、故障している電化商品、昔の白黒写真と、いずれも修理、復元する名人を紹介する。
こういった人たちを垣間見ると、学校の教員は「技術者」と呼べるだろうか、と考えさせられる。 おそらく、技術という言葉には、2つの意味が込められている。その一つは、テクニックであり、一連の出来事を客観的に他者に伝えられるので、再現できる余地を残している。もう一つは、アートであり、「なんとなく」までは言えるが、それは主観的な説明であり、再現はできない。 教育学において、勘やコツという後者は「科学的でない」と批判の対象にもされてきたが、「教育という活動は、はたして科学的なのか」から考えてみる必要があるだろう。 教員の職務(業務)-教えよう、伝えようとする行動、状況判断、意思決定、フィードバック(振り返り)-には、きわめて目の粗い計画、「出たところ勝負」の対応、「後になってみなければわからない」結果、という特徴が観察される。「今の授業、良かったわあ。もう一回やって」と言われても、確約できないのが普通である。 つまり、教育という活動を、再現性を前提にするテクノロジーでは、なかなか説明できない。反対に、臨機応変に、状況に応じて、即興的・創発的に進められるほうが、スムースにできる、というのが「現場感覚」に近い。なのに、どうして「~すれば、~になるだろう」という発想で教員の仕事を考えようとするのだろうか。不思議だ。 テクニックではなく、アートにならざるを得ない教員の活動(なぜか、教員は「実践」という言葉が好きだ)は、職員というよりも職人的である。教員よりも教師という言葉が用いられる背景も、この辺りにあるのかもしれない。職人である教員が、「自分のやり方」にこだわり、同僚と必ずしも協働的でないのは、十分に合理的な行動である。「真似をしようとしても真似できない」のが、教育という活動なのだから。そこを、「協働しなければならない」などとお説教をしても、仕方がない。 そこで可能な働きかけは、適用性(application)を前提にした、「~したら、~になるだろう」を求めるのではなく、「~したのは、~と考えた、~判断した」という行為の意味づけ(implication)を解きほぐし、違う解釈を導くことを通じて、豊かな活動可能性を担保することである。この点で、「教員研修の体系化」は、大きな勘違いを下敷きにしており、大学での養成段階を終えた以降の、「教師教育」なる言葉も現実を説明できない。職人的な仕事をする教員を「教える」ことは基本的にできないのである。 AEDの使い方、わかりやすい学級通信、といった初任期に知るべきことを除けば、入職後の教員には、それぞれに勤めた学校、出合った教職員、児童生徒、保護者等との関係を通じて、知り、気づき、悩み、折り合いをつける「学び」しか残されない。ちなみに、この意味で「現場」とは、学校一般のことではなく、あくまでも個別特殊な子どもと教室、そして学校である。もちろん、大学も現場の一つだ。「現場を知らない」のは、教員間でも同じこと。そこで他者のできることは、より学ぶことができる労働条件と環境を整え、また整えようとする自身へと駆り立てていくことである。
by walk41
| 2012-01-29 11:03
| 学校教育のあれこれ
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