50歳の患者と90歳の患者
NHK、クローズアップ現代(2012.1.31)は、「あなたの自宅をホスピスに」。
重篤な患者とその家族、医療スタッフ、同様の病気で家族を亡くした遺族、といった新たなネットワークが作られていることを知ったが、もう一つ、これまでの医療が完璧に患者を治そうとして、年齢による治療の意味の違いを考慮してこなかった、という発言を興味深く聴いた。 曰く、50歳の患者さんであればこれからを考えて、しっかり治療しましょうということで良いが、90歳の患者さんに同じように考える必要があるのか。後者は、住み慣れたところで、心休まる家族と過ごすことが、むしろ大切ではないか。 これは医療の話なので少し乱暴かもしれないけれど、学校教育に置き換えて考えてみたい。「よくできる」生徒と「そうではない」生徒に求める到達は、同じでいいのだろうか、と。 高校からはともかく、小学校と中学校の9年間、日本では普通教育として、児童・生徒は選別されることなく、基本的に同じクラスで過ごす。そこで教員を悩ますのは、すぐにわかる子どもとそうではない子ども、あるいは教師の望むようにわかる子どもとそうでなくわかる子ども、といったように、色々な子どもがいるために、どの辺りを、あるいは何を目標に授業を進めていけば良いのかがわかりにくい、ことだ。 「落ちこぼれ」が望ましくないのと同じように、「吹きこぼれ」も良いことではない。そこで多くの教員は、「まんなか」あたりの生徒を主眼に置くため、前者はまだわからず、後者はやっぱり飽きてしまうことから来る、「授業秩序」の乱れを押さえることができない。その結果、「みんながわかった」授業とは、「とうに、わかっていた」子どもが相当数に上るものになりかねないのだ。この難問をどうすればよいか。 ひとつ考えられるのは、教科や単元にもよるだろうが、授業で扱う内容を幅あるいは奥行きをもったものとして構想し、「ここで扱う内容に、君たちはそれぞれ自分なりの関わりをすればいいんだよ」というメッセージと合わせて、授業を行うことだろう。 これまでの圧倒的な授業は、一斉教授方式であろうが、グループ学習の形を取ろうが、はたまた「一人学び」(これ、変な言葉だと思う)であろうが、同じ目標に向かおうとする点では同じである。そうではなくて、難易度の低い-高い(ここでは、幅。座標のX軸にあたる)とともに、「問題度」(とりあえずの言葉として)の低い-高い(ここでは、奥行き。Y軸)も設定した、授業像を立てること、もって、いずれの方向であれ、すべての子どもが何らか関われることを目指すのである。問題は、そうした「教材研究」という準備と、授業にて臨機応変な対応のできる教員がどれほどいるかだが。 「そこでの目標達成はどのように確かめるのか」ときっと問われるだろう。もちろん、それなりの基準の設定は必要だろう。X軸を中心に、Y軸はできれば、くらいで。しかしながら、だからといって、全員がそこに、しかも授業時間内に達する必要は必ずしもないし、すでに達した子どもを「ちょっと待ってね」と退屈させる必要もない。授業の内容が完結的に設定されているがゆえの問題を、子どもの集中力の問題と勘違いしてはいけない。 ドイツ語には、「よくできる子どもたち」を"hochbegabte(才能のある) Schüler" といい、「そうでない子どもたち」を"schwach(弱い、貧しい) Schüler" という日常的に学校で遣われていると思われる言葉がある。 日本語では、「みんな天才」という言葉が好かれるためか、こうした言葉は避けられるように感じるが、学習のスピード(幅について)や理解・習得の中身(奥行きについて) は、さまざまであり、また一つの授業や学年。さらには学校にいる間でそのいかんを問われなければならない訳でもない。子どもの育ちや学びに対して、もっとゆとりのある、先を考えた教育関係者や大人のまなざしが大切なように思う。
by walk41
| 2012-02-01 09:40
| 学校教育のあれこれ
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