「いじめ」を減らす方法はあるか?
文部科学省による「いじめ」の定義-「当該児童生徒が、一定の人間関係のある者から、心理的・物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの」(いじめの問題への取組の徹底について(通知)2006.10)。
学校に限らず、職場でもいじめが観察されることを踏まえれば、昨今の子どもの問題に限らないこと、つまり「教育問題」でないことをまず確認しなければならない。そう、いじめは、学校、地域社会、職場、どこにでも起こりうる、普遍的な現象である。 ここから、人間の他者理解に関わる基本的な特性が、いじめという行為を支えていると仮説しよう。人間ならではの特徴は数多くあるだろうが、その一つ、他者に構いたがるという点を挙げてみる。これは、求められれば助けるけれど、そうでなければ放ったままというチンパンジーとの大きな違いである。 他者に構いたがることは、自分に合わせるように他者に求める、おせっかいと訳すこともできる(ストーカーやDVは、その極端な現れ)。ではどうして、おせっかいを焼きたがるのか。人は、自分にとっての「社会」を構築する上で、他者にも「ルール」に従ってもらわなければならない。「郷に入れば郷に従え」である。血縁など「自然な」人間関係では「ルール」は強調されずにすむが、規模が大きくなると、それだけでは社会を維持できなくなる。現代の法律や規則は、それを破ったものに対する制裁を伴い、「いやでも守らなければならない」ものとして登場するのだ。 「政党交付金の総額は、基準日における人口に250円を乗じて得た額を基準として予算で定める」(政党助成法、第7条)に反対の人にとって、この条文は「いじめ」になりうる(精神的な苦痛を感じていたら)。 昼食時、「みんな、Aランチでいいよね」って音頭取りに強いられるのは、それを食べたくない人にはまさに「いじめ」だ(精神的だけでなく、金銭的にも苦痛)。 「お正月に夫の実家に帰省するのは、嫁として当たり前でしょう」と嫌いな姑から言われたら、「いじめ」に他ならない(ところが、姑の周りが、「そんなことないんじゃない」と口を揃えたとしたら、姑には「私はみんなからいじめられている」となる。そして、嫁と姑のどちらも泣くのはよくある脚本だ)。 もっとも、現実の制裁はあいまいで、「保護する子女を学校にやること」を守らなくても罰金を取られることはないし、多少のことには目をつむることも多々ある。それは、あまりに厳密に適用すると、制裁のコストがかさみ、社会の維持に大きなマイナスになるからだろう。軽微な罪で逮捕し、刑務所に送ることは、手続き、維持費などの点で費用が掛かり、何よりも、社会に対する反抗心を強める点でリスクとなる。 かくも、すべての他者が多数の支持するルールを消極的であれ、承認する訳ではない。ここに至って、あるメンバーが意識的・無意識的に、そして直接・間接に否定的な態度を見せることから、自分に従うべきと考える側から、制裁としていじめを受けることになる。すなわち、明文化された法律や規則のように、明瞭な基準に依るほど厳しくはないが、そのまま見過ごす訳にはいかないと判断された曖昧な制裁、それがいじめである。 やっかいなのは、本人がなんら否定的なことを意図していないにもかかわらず、「訳のわからぬまま」制裁を受ける場合があることである。「言葉づかいがちょっと変」「目つきがいやらしい」と、多数を自負する側に思われると、いじめが生じる。それは「なんとなく」でもあるため、当人には守りようがないのだ。 以上から、学校でいじめを減らす(何らかの集団を作りたがる限り、なくすことはムリ)ためには、 1.学校における規則を可能な限り明文化して、それ以外のルールは認めないと、教員側が宣言する(そうしたくない子には苦痛になる点では、いじめになるが)。⇒細かな規則を作るコストを考えれば、非現実的か? 2.他者理解などと、児童生徒間ですぐにわかり合えるような幻想を振りまかず、「わかり合えればラッキー」くらいの学級経営に努める。⇒「みんな友だち!」って言いたい教員に、そんなことができるか? 3.インフォーマルな規範や価値基準が、実は相対的なものであって、時代や地域あるいは「好み」でいかようにでも変わる、と伝える教育をする。⇒これは現実的では? そのためには、教室で誰かが答えたら、次の瞬間に「いいで~す」なんて掛け声をやめなければ。
by walk41
| 2012-02-05 10:12
| 学校教育のあれこれ
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