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学校・教職員の現在と近未来 Gegenwart und nähere Zukunft der Schule und ihrer Mitglieder

理論

こういう話を、ときどき聞く。

「講演や研修会などで、『~でなければならない』と言われて、そうしようとするんですが、なかなかそうならなくて、苦しむんです」

最前線で実践する人に、罪なことを言う人がいるものだと思う。

たとえば、学校における目標管理。自ら目標を立てることを第一義にする点では、目標が組織から降りてくるノルマ管理と違い、それぞれに決められる自主性、主体性に重きがあるとされる。だけれど、学校では、教育-学習の特性からいって、それぞれのスタッフですら目標を立てたり、またそれを達成することがきわめて難しいのである。

たとえば、「学校に来るのが楽しいと思う子どもを80%以上に」と目標を立てても、そう思うかどうかは、教職員には直接にはどうしようもないことであり、子どもに委ねられざるをえない。このため、目標により近づいた格好をとるべく、極端な質問紙を想定すれば、「そう思う」「どちらかとそう思う」「そう思わない」と3段階の項目にすることすら、まったくないとは言えない。

そもそも、小学校ですら毎年6分の1、中学校、高校では3分の1の児童生徒が入れ替わるので、年度を単位に比較しても、ほとんど意味をもたない。「学力が上がった」と言っても、卒業した生徒よりも、入学した生徒の方が「望ましい状況」だっただけなのかもしれないのだ。学校が「~したら、~となった」と言うことは、実証的にまず不可能である。

かくも、学校教育については、①まず事実をつかまえることが難しく、②つぎにその事実がなぜそうなったのかを説明することが難しく、③それゆえどうすれば同じようなことが起こるか(起こらないか)を予測することも難しい。こうした特性をもつ世界の「理論」とは、それぞれの主観的な見方を拾い上げ、交差させ、相対化させることで、各々の見方を広げ、それまでの見方から解放し、楽にさせることにこそ意味がある。だから、「理論」が実践する人を追い詰め、視野を狭くし、しんどくさせているならば、それは誤っているのである。

だから、講演や研修に参加される皆さん、聴いていて辛くなる、苦しくなると感じられるのなら、だいたいにおいてそれは、学校の実際を説明することに失敗しているということ、を忘れないでほしい。自分の直感を頼りに、つまり、ときに経験にも依拠せず、感じ、そして考えてほしい。学校の現実は、学校の数だけ、学級の数だけ存在するのだから、一つの説明でどれほどのことが言えるのか、懐疑的になってほしい。と同時に、自らの経験を振り回さず、どのような視野と論理で自分は捉えているのかを見つめ、それらを広げ、解体してほしい。それが、「より良い」実践を支える基盤になるのだから。
by walk41 | 2012-07-01 08:59 | 研究のこと | Comments(0)
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榊原禎宏のブログ(Yoshihiro Sakakibara Blog) 教育学の一分野、学校とその経営について考えます(um die Schule und ihre Verwaltung und Management)
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