いじめとルール
前のブログで、子どもたち(に限らないが)の間で、社会的排除が陰湿、つまり不透明なのは、正統化されたルールが存在せず、ペナルティの基準、軽重や範囲などが明らかでないままに、なんとなくの排除が加速する点にあるためでは、と一つの見方を示した。
その続き、ではどうして、子どもたちの主な生活の場である学校には、正統化されたルールが存在しないのだろうか。 近代社会では、刑法や条例、そして裁判にしたがって、罰せられる基準や刑の重さなどがおおよそ定められる。これに対して、学校は疑似社会なので、労働がなく、また交換や貨幣もなく、契約や協定といった制度がほとんど見られない。学校の外では、対価を支払ったのに商品を渡さないのは商法に反するから、詐欺罪に問われうるが、学校では、生徒の行為は労働ではなく、親切や思いやりから行われると見なされるので、取引ではない。対価を支払う必要はないのだ。ところが、「無理をしてやってあげたのに、お礼一つなかった」と受け止めた生徒からすれば、「そういう子は、みんなから嫌われて当然」と、いじめの呼びかけ人になるかもしれない。 あるいは、学業やスポーツなどで優秀な成績を収めたことが、所得や処遇などに反映されず、むしろ日本的な文脈では謙遜こそ尊ばれる場合もあるために、社会階層として安定しない。いわゆる平等な状態である。学校外の社会にも住んでいる生徒たちが、このことに不満を抱きはしないだろうか。 くわえて、学校でも、また大人社会でも正統化されたルールがない領域が存在する。転校生がいじめられる場合を考えてみよう。転校生は違う制服を着ていたり、遠くからやってくれば言葉に違う訛りがあったり、何よりも、クラスになんとなく共有されている気風や雰囲気をまだ知らないから、異質として捉えられる。この異質なものを、排除することは、自分たちが共通して持っているものを確認し、強化することになるから、「正義」なのである。また、排除を通じて転校生を教育することもできる、感謝されてもいいくらいだ、と考えるのだ。新入社員いじめとしてのイニシエーション(通過儀礼)は、この類ではないだろうか。 こうした理解は、学校外の大人の社会でもまったく起こりうる。私的な領域では、法律や貨幣では規定しないという近代社会の前提がある(私事性の原則)から、警察の民事不介入もそうなのだろう、公権力が発動されるべきではないと見なされる。職場、近所、社宅でのいじめ、ときに家族でのいじめはいずれも、「お金では割り切れない」ゆえなのである。 以上のように、学校では近代社会の成立に不可欠な、市民社会という理念(上部構造)とそれを支える労働、生産形態、階層や階級(下部構造)がない、少なくとも「みんな一緒」とされる一方、「肯定的な資源」の配分は決して平等にならないし、またその分だけ「否定的な資源」の押し付け合いが起こりうる。 はたして、このように「いじめ」を捉えることはできるだろうか。それとも、とんだトンチンカンな解釈だろうか。ご教示願えれば幸いです。
by walk41
| 2012-07-05 18:22
| 学校教育のあれこれ
|
Comments(0)
|
カテゴリ
以前の記事
2024年 03月
2024年 02月 2024年 01月 2023年 12月 2023年 11月 2023年 10月 2023年 09月 2023年 08月 2023年 07月 2023年 06月 2023年 05月 2023年 04月 2023年 03月 2023年 02月 2023年 01月 2022年 12月 2022年 11月 2022年 10月 2022年 09月 2022年 08月 2022年 07月 2022年 06月 2022年 05月 2022年 04月 2022年 03月 2022年 02月 2022年 01月 2021年 12月 2021年 11月 2021年 10月 2021年 09月 2021年 08月 2021年 07月 2021年 06月 2021年 05月 2021年 04月 2021年 03月 2021年 02月 2021年 01月 2020年 12月 2020年 11月 2020年 10月 2020年 09月 2020年 08月 2020年 07月 2020年 06月 2020年 05月 2020年 04月 2020年 03月 2020年 02月 2020年 01月 2019年 12月 2019年 11月 2019年 10月 2019年 09月 2019年 08月 2019年 07月 2019年 06月 2019年 05月 2019年 04月 2019年 03月 2019年 02月 2019年 01月 2018年 12月 2018年 11月 2018年 10月 2018年 09月 2018年 08月 2018年 07月 2018年 06月 2018年 05月 2018年 04月 2018年 03月 2018年 02月 2018年 01月 2017年 12月 2017年 11月 2017年 10月 2017年 09月 2017年 08月 2017年 07月 2017年 06月 2017年 05月 2017年 04月 2017年 03月 2017年 02月 2017年 01月 2016年 12月 2016年 11月 2016年 10月 2016年 09月 2016年 08月 2016年 07月 2016年 06月 2016年 05月 2016年 04月 2016年 03月 2016年 02月 2016年 01月 2015年 12月 2015年 11月 2015年 10月 2015年 09月 2015年 08月 2015年 07月 2015年 06月 2015年 05月 2015年 04月 2015年 03月 2015年 02月 2015年 01月 2014年 12月 2014年 11月 2014年 10月 2014年 09月 2014年 08月 2014年 07月 2014年 06月 2014年 05月 2014年 04月 2014年 03月 2014年 02月 2014年 01月 2013年 12月 2013年 11月 2013年 10月 2013年 09月 2013年 08月 2013年 07月 2013年 06月 2013年 05月 2013年 04月 2013年 03月 2013年 02月 2013年 01月 2012年 12月 2012年 11月 2012年 10月 2012年 09月 2012年 08月 2012年 07月 2012年 06月 2012年 05月 2012年 04月 2012年 03月 2012年 02月 2012年 01月 2011年 12月 フォロー中のブログ
最新のコメント
メモ帳
ライフログ
検索
タグ
その他のジャンル
ブログパーツ
最新の記事
外部リンク
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
|
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ファン申請 |
||