1000分の1秒
NHK,クローズアップ現代 20120705 は、「1秒の重み」を追う。
いくつかのエピソードが紹介されたが、中でも興味を引かれたのは、卓球の球が動くスピードを1000分の4秒、遅くすることにより、観客がもっとも興奮する7回のラリーを標準にすることに成功したという話だ。 ラリーが短いとつまらない、かといって長すぎるのもつまらない、という観客の「我が儘」に対応して、「クライ、ダサイ」卓球のイメージを一新する一役を買ったのが、ピン球の重さを変えるという発想だったのだそう。 これは、人間の生き物としての反応を第一に踏まえ、それに叶った環境を用意するという考えの筋道を取るものだ。20万年ほど前に誕生した人類、世代数でいえばおよそ1万くらいのご先祖がいることになるだろうか。その経験を通して、今の私たちがいるのだから、生理的な特徴がまずあり、つぎに心理的あるいは社会的な特徴が踏まえられてはじめて、人間というものを理解することに近づくことができるのだろう。 これに対して、学校教育の議論は、いかに反対の筋道をとっていることか、と愕然とさせられる。 近代以降なのかどうかはわからないけれど、理解、意思といった大脳のなかでも、前頭葉とく前頭前野への刺激が急激に強まり、これを操作することで、人間の考えや行動に影響を及ぼそうとしてきた。その一つが教育だけれど、これが人間のどれほどを説明できるかについては依然としてよくわからない。教育に関する研究の蓄積というものは、ほとんど確かめられないのだ。だからこそ、「エライ」先生によるまことしやかな話がブームに合わせて流布されても、やがて消費される(飽きられる)と次のタレントを探すことになる。 かくして、その領域を深める、極める。技術的な限界を広げていく分野と違って、学校教育という分野は、教育に携わる自分たちを含めて研究対象になるので、技術的すなわち客観的、再現的に扱うことができない。このため、45分授業はどこまで妥当なのか、教師が何分話すとどれだけ集中力が落ちるのか、と限定した話にならず、よって、「~すれば上手くいく」と断言できることが驚くほど少ない。 こうした特性を持つ学校教育について、専門性を「高める」、「高度化する」というのであれば、それは蓄積を要する垂直的な方向ではなく、幅を広げる水平的な方向で考えることがまっとうである。つまり、ある意味で幸運なことに、教育の世界、そして学校教育の世界では、秒単位の争いは無縁なのだ。教育の効果は何十年先かも知れないし、ついに確かめられないかもしれない。そもそも、教育の効果って何?、というところから話は実は全くといって良いほど進んでいないのだから。 いっそう加速する社会にあって、学校は、「社会」の論理と(生理的でもある)「学習」の論理の狭間に置かれている。引き裂かれそうな中、いかに踏ん張れるか、それとも時の為政者に棹さされて、とりあえずは技術化を目指すか。こんな構図で学校教育を捉えることもできるように思うけれど、いかがだろうか。
by walk41
| 2012-07-05 23:52
| 学校教育のあれこれ
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