「仮説検証授業」
小学校の教頭先生から嬉しいメールをいただいた。
「仮説検証授業」という校内研究が実り乏しいにもかかわらず、どうして続けているのか疑問であり、関係機関にもその旨を伝えたことがあったが、意を汲んでもらえなかった、ぜひ変えたい、という趣旨と読んだ。 これまで何度となく同様のことを述べて、学校の先生方とくに小学校の方々に問い、さらには挑発してきたが、授業の特性に即した研究をしませんかと、重ねてメッセージを送りたい。 1.授業は、教師と子ども、教育内容から構成されるけれど、どれ一つとして、安定的に教室や体育館に現れるわけではない。つまり、初期条件を整えることができない。「~において、~すれば、~になるだろう」という文章の前提が、そもそも成立しない。 2.誕生日の今日が嬉しくて、意欲の高い子どももいれば、友だちとケンカをして気持ちが沈んでいることもある。そんな子どもたちが何人もいるところで、一つの「子ども観」を形づくれるはずがない。 3.教師は一人のことが多いけれど、それとて日によって気分・感情・認知はさまざまだ。若い頃とベテランの頃では子どもへの眼差し一つ違っているだろう。だから、「教師による働きかけ」を一通りでは説明できない。 4.教育内容ですら実は一様ではない。理数系の内容ならばまだしも、人文・社会系の内容は、子どもと教師の生活環境、これまでの経験と意見が下敷きにされるため、客観的に扱うことがほとんど不可能である。どのように詩を解釈するか、働くということをどう考えるかなど、「知識・理解」は多様である。「総合的な学習の時間」、「生活科」、「道徳」などはこの傾向がより顕著で、どのように受け止めるかは、それぞれに委ねられざるをえない。 5.よって、「こうなるのではないか」(仮説)のもと、「どうなったか」(検証)を立てる段階にまだ至っておらず。それ以前というのが実際である。 6.その上で、2,3,4の条件を整えることができたら(ほとんど、そんなことはできないのだけれど)、仮説-検証ができるかと言えば、これまた無理なことなのだ。 7.授業を通じて、ある事実が生まれたとしても、それは授業に帰属させる(授業のおかげ/授業のせい)ということが説明できない。その日のお天気が悪かったら、授業がうまく行かなかっただけかもしれない。 8.ある事実が、授業に帰属させることができたとしても(できないのだけれど)、その事実をどのようにつかまえるか、という点でつまずく。客観的な測定は不可能だから。「~のように感じた」「~のように見えた」という印象批評の域を決して超えない。 9.7,8から仮説の検証そのものが、授業についてはできない。どれほど意識的かはわからないけれど、このことを学校教員は経験的に知っているから、このスタイルでやってくださいと依頼がくると、「~すれば」と「じ~になるだろう」の距離を限りなく短くすることで、その場をしのごうとする。「発表をたくさんさせる授業をすれば、発表力が身につくだろう」というように。このような文章は、何の意味もない、同義反復(トートロジー)である。 10.以上から、「よりよい」授業をする上で、仮説-検証によって、知見を蓄積しようとすることはほとんど「賽の河原」状態であり、無理なことである。授業を研究するとは、こうした「深める」(極める、細くする)発想に替わって、「広げる」(裾野を大きくする)発想(「こんなこともできるんだ」「こんなこと、やらなくてもいいんだ」)発想のもとでこそ、可能である。 いかがでしょう。新しい、楽しくやりがいのある授業研究に向かいませんか?
by walk41
| 2012-07-09 20:38
| 学校教育のあれこれ
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