学校で「いじめ」が起こりやすい理由
「いじめ」問題について、個々の事例についてよりも、原理的に深めたいと何度か書いてきた。
それらを、十分に知己を得ている知り合いに紹介し、コメントをもらうことができた。以下、このコメントに即してさらに検討したい。 もらったコメントは大きく2点。その一つは、「社会的承認を受けたルールの不在」が「いじめ」の暴走を導くのでは、との私の見方に対して、「気分として共有されてしまっている(無自覚にも)ような意味で『承認された』ルールが、学校にも子どもの世界にもないか」という指摘だ。たとえば、「いじめ行為を『正義』とさせてしまうような『社会的承認を受けたルール』とは何かが問題なのでは」と問う。 これに対する私の見方はこうである。学校とくに義務教育段階では、労働を中心とした人間関係がないために、学校外社会では一般に見られる契約や法律といった「ルール」が存在しない。かつて私は、学校版「地域通貨」の導入を提案したことがあるけれど、そうしたものを一切持たない人間関係は、親切心から手伝う、嫌になったらサボるといったように、「不自然」なのだ。つまり、労働の不在という特徴から、学校は曖昧さを取り除くことができない(まだ考えるべきことは残っているけれど)、だからこそ、ときに恣意的な「正義」が暴走する危険があると見るのが、より説明的ではないだろうか。 くわえて、「教育的配慮」という学校外ではあまり見られない圧力も強い。「約束を守らなかったけれど、次はちゃんとできるよね。だから、今回は許すよ」といったことである。ちょうど、駐車違反をしたけれど、事情を話して見逃してもらうといったことが学校ではしょっちゅう起こる。またそうあってよいという価値観も強く働く。何しろ相手は子どもなのだから。しかし、学校外社会で警官がそれをやり過ぎると、法治国家と言えなくなる。そこに汚職や権限乱用が生じる。「まあ、ええやん」と正統化されていない「正義」の登場である。 もう一つのコメントは、「学校を市民社会的なものへ構築することは可能なのか、という問い」を含めて、「このルールを当事者が自覚的にその成立過程に関与するということが必要ではないか」、つまりは、「この『社会的承認』をどのように取り付けるのか、という問題を考えていくことが必要だと」いうものだ。 これは、1点目の続きになると思う。どうすれば、学校で明確な「ルール」づくりが可能かといえば、「生徒憲章」のような「憲法」や「法律」を作って、基本線を正統化することが挙げられる。もっとも、学校外社会では、何らかの対価でサポートされるのが一般的なのに対して、学校では、何かをもらって助けてもらう、何かをあげてやってもらう(宿題や掃除など)ことは許されないので、どうしても無理が生じてしまう。たとえば、「お互いの個性を大切にし、違いを認めあって、と もに成長しあおう」(大阪市立平野北中学校、1998.3)とあるが、学校では、何のための人間関係なのかがそもそも明らかではないので、帰属、利害、交渉といった概念の入り込む余地が乏しい。つまり、学校を市民社会的なものに方向づけることには、相当の無理があると考える。 「ルール」が社会的承認を得るためには、まず生産とその配分の関係に規定された利害関係が生まれ、当事者間の葛藤や衝突が生じ、その平和的解決のために、明文化されていく、という過程を経ると見れば、学校が「ルール」の基盤を欠くことは明らかだろう。にもかかわらず、「明確なルールを!」というのであれば、それは生徒の自生的な動きに委ねることはできない。生徒の外から、有無を言わせず枠をはめること、たとえば「君たちは、国家社会の継続発展のために、いま教えられる必要がある。そのために、すべてのルールは教職員によって与えられる」と、彼らの自由や選択を排除する方向である。しかしながら、学校外の社会でも生活する彼らにこのメッセージはなかなか届かないだろう(全寮制にする学校は、外界との遮断をねらうものだ)。 かくして、学校は不明確な場であることから免れない。そこに「いじめ」も生まれる素地が残る。このように考えているのだけれど、いかがでしょう。引き続き、議論したいと思います。どうぞよろしくお願いします。
by walk41
| 2012-07-10 10:01
| 学校教育のあれこれ
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