校長の権限強化
大阪市教育委員会は、公募していた市立小中学校の校長ポスト(定員約50人)に、国内外から1282人の応募があったと発表した。
同市長はこれで改革に弾みをつけたい考えだが、おそらくうまくいかないだろう。なぜなら、学校で行われる教育-学習という活動は、最終的には児童・生徒と、あるいは教員と接する「最前線」の当事者でしか決めようがなく、さらには彼らですらどうしようもないことも多々あるからだ。なのに、校長がこう決めたら、教室や体育館での現実がそのようになると考えるのは、あまりに幼いというべきだろう。 たとえば、子どもの学力向上をこれだけ図る、と目標を立てたとしよう。そのために、授業時数を増やしたり、より丁寧な指導案を出させたり、校長が教室を頻繁に回るくらいまではできる。しかしながら、だからといって、それが学力向上につながるとは言えない。授業が増えて子どもに嫌気が差したり、指導案づくりに教員が疲れてしまったり、校長が教室に入ることで雰囲気が変わったりするかもしれないからだ。 このように教育-学習という活動では、モノ相手の仕事と違って、学校内外のあれこれが影響を及ぼしあうので、ある出来事の起点を特定できず、当事者ですら事態の推移を読み切れない、「瓢箪から駒」、「風が吹けば桶屋が儲かる」ことがしょっちゅう起こる。教員や児童・生徒がどうなるかわからないことを、この活動から離れていざるをえない校長(何しろ、校長は授業をする権限を持たないのだから)がどう振る舞っても、考える方向に事態が進むとは言い切れない。 校長のできることは、遠目にそれぞれの教室を眺めて、あまりに近いために見えにくくなっている(「灯台もと暗し」)教員に対して、メタ的な立場からのアドバイスを通じた、視野を広げるサポートであって、「こんなふうにしたら上手くできる」などとやり方を伝えることではない(榊原禎宏「学校組織構造のメタファー」2008、を参照)。 だから、校長の権限強化ができるのは、対教職員ではなく、教育委員会との関係についてである。たとえば財務。児童生徒ひとりあたりの公教育費は約100万円だから、究極的には100万円×生徒数の予算を学校に移譲して、学校での一切合切を校長の責任に委ねる。もちろんそのためには、今のような1校あたり2~3年で校長が替わる人事異動は廃止、最低でも10年くらいは同一校勤務とする。よって、50歳を越えて校長になることはできず、できれば40歳くらいまでに校長になって、10年ずつ2校を経験するという感じにする。この結果、校長になれる教員は今の数分の一へと激減する。また、学校管理職になる前に、主任や主幹教諭を経るとすれば、それらに30歳代半ばにはつかなければならない。新規採用から10年ほどでそんなことは可能だろうか(榊原禎宏「新たな職の導入と学校の組織力」2010、を参照)。 さて、こうした案に対して、校長会は黙っているだろうか。あるいは今の職位制度は維持できるだろうか。何よりも「日本的」な教員のキャリアパターンに適うだろうか。おそらく難しい。 かくして、校長の権限を強めるというアイディアは、政治家のスローガンまでに留まり、現実味を帯びないことがわかる。やりたくでもできないのである。
by walk41
| 2012-09-14 07:06
| 学校教育のあれこれ
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