新しい校内研究の提案
ある小学校の校内研修会にて、話をさせてもらう機会を得た。
どれほど一般的かはわからないけれど、決して少なくはない学校で、とくに小学校で多く採られているだろう方法を念頭に置き、これに替わる、「実りとやりがいのある校内研究」への提案を示したつもりだ。 1.研究主題はできるだけ小さく、具体的なものに。 研究主題には、「表現力の育成」や「コミュニケーション能力の向上」と、まったく雲をつかむような話が多いが、これでは何を対象にしているのかがわからない。その結果、研究への関心を惹起できず、「まあ頑張りましょう」の域をおよそ超えるものにならない。校内研究というからには、当該校の状況を具体的にとらえたテーマにしなければ、そもそも始まらないのに。たとえば、「宿題忘れを減らすにはどうすればよいか」「保健室への来訪者が増えているのはなぜか」「保護者との対応はなぜ上手くいかないか」「どうしてもっと盛り上がる運動会にならないのか」と、授業に限らず、学校での出来事にいかなる「悩み」や「困り」があるかを示すのが、主題である。 それが「問い」になる。問いでは限りなく小さいことを扱うけれど、それが他の問いに繋がるようならば価値がある。私たちが捉え、確かめられることは、驚くほど狭い世界であってこそである。また、校内研究は学校を「よりよく」する研究なのだから、あらゆる学校での活動が対象になる。どうして、必ず授業を扱うものと考えるのだろうか。 2.仮説-検証は教育学の世界に馴染まない。 多くの学校では「~すれば、~になるだろう」という形式を取っているが、学校の実際はこの形式にふさわしくないので、ほとんど言葉遊びに留まっている。すなわち、「いろいろな言語活動をすれば、言語力が高まるだろう」「身体を動かす喜びを知れば、運動が好きになるだろう」といった同義反復(tautology)である。問題は同義反復になっていることよりも、そうした表現でしか「お茶を濁す」ことができないくらいに、学校での教育-学習活動は、直截的に結びつけられない特性が明らかなのに、それが踏まえられない形式となっていることである。 だから、探索的な仮説ともいうべきここでは、。新しい主題に示されるように、「~になってしまうのはどうしてか」「~はどうすれば改められるか」という疑問文で表現できるものがなければならない。疑問がないところに発見もあるはずがない。発見ができそうもないところに興味も湧くはずがないのである。 そして、実践ではいろいろなこと、できるだけこれまでやったことのないことを試みる。研究と銘打たずとも、毎日の職務が工夫の連続であるし、それなりのことは既にやっているからだ。この点からも、「~すれば」とやり方を限定するのは、研究としてそももそも誤っている。 3.「教員全員で、1年間をかけて」を止める。 同僚性や協働性とも表現される「みんなで」が第一義になってきたためだろう。何をするのか、どうしてやるのかが脇に置かれ、とにもかくにもみんなで時間をともにすることが大切だという観念を問い直し、主題や問いにふさわしいメンバー、人数、時期を考えてプロジェクトを立ち上げる。ある単元や内容に即して「この指とまれ」方式で関心あるメンバーを募り、時期を限定して集中的に扱う。研究は毎日の実践とは多少なりとも異なるから、長い時間をかけるのはふさわしくない。終わったら、プロジェクトは解散する。 ただし、やった結果の報告は学校全体に。それぞれに聴き、活かせば良い。みんなでやっているという意識上も大切だろう。もちろん、授業を対象にした研究であっても、みんなで見に行く必要はなく、プロジェクトメンバーですら見に行かずともよい。授業を見に行くとは、その授業に干渉することであり、「普段の授業」が期待できるはずもなく、あくまでも「見せるため」である。そう割り切って見るならばよいけれど、そこに「自然な授業」が見られるかのように思うのは大いなる勘違いである。「子どもは見に行っても気にしない」と言う人もおられるだろうが、授業者の教員はそうはいかない。「見られると変化する」ことを踏まえて、それでもなお何を授業に見ようとするか問われなければならない。 ---------- 以前のブログにも書いたが、教育長さんでも組合の委員長さんでも、校長会のみなさんでもいいから、議論したい。旧態依然の校内研究、誰も研究主任になりたがらない、いたずらに時間を食う割に達成感の得られない、授業もほとんど変わらない、こんなために1校あたり数百万円もの血税が使われていることを納税者が知る前に、何とかしませんか。相当にヤバイ状況だと思うから。
by walk41
| 2012-10-13 00:34
| 学校教育のあれこれ
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