学校・教職員の現在と近未来-榊原禎宏のブログ

学校が持つ「二つの世界」

学校がとても不思議なのは「二つの世界」を持っているから、と見れば、現実がより説明できると思う。

二つの世界の片方は、「見えにくい」世界である。学校は教育を通じて学習を促すことを目指すものだけれど、教育と学習の両者が順接するとは限らず、逆接したり無関係だったりするから、どのように教育すればよいかということがあまり自明ではない。どのように児童生徒が学習するかについて、教員の知りうるのは、あくまでも経験則というケースの束にもとづき、「褒めれば励む」と「叱れば励む」、あるいは「何もしなければ励む」というように、直截的な対応関係を想定できない。文字通り、ケースバイケースである。子どもの学びにどのように教える立場が関わればよいかについての解はない。教えられたことをどのように受け取るかは、児童生徒の可塑性に拠っており、必ずしもアテのあるものではない。「学んだ」と思うことすらそうであるように、この世界はすぐれて主観的、あるいは曖昧である。

これに対する、もう片方の世界は、「見えやすい」世界である。学校は巨大な公教育事業体として、小学校から高校、特別支援学校とおよそ100万人の教員免許状を有する教員を雇用し、他の職員と合わせて年間10兆円ほどの給料ほかを支払っている。あるいは、学校は年間1000時間近い授業を一人の子どもに対して実施し、学習指導要領に準拠した教科書および副教材などの内容をある程度まで習得することが予定されている。義務教育段階の教科書は文部科学省によって無償提供され、すべての小中学生が自分の教科書を受け取っている。こうした事柄は誰の目にも明らかな客観的なものであり、主観の余地は乏しい。事実はほぼ正確に測定される。

学校は、この二つの世界が入り交じって構成されている。授業時数や教科書のページ数、教師の発言時間や子どものテキストは客観的だが、それらが「教育の成果」を示す訳では必ずしもない。授業時数を増やしたからと学力が上がる保証はなく、教員が「待ちの教育」として意図的に黙ることも日常的だ。

かくも、入力が出力に直結するわけではなく、そうならないことこそむしろ一般的でもあるのが学校の主観的、不安定な性格を示している。しかしその反面、授業が行われる教室や体育館、教職員スタッフ、時間管理、施設設備管理が伴ってこそ初めて、学校が存在する面も持っている。これは、入力が出力を基本的に規定するというモデルに基づくから、出力を改めるには入力を操作するという発想を辿る。これがPDCA論や数値化を含む目標管理論である。

つまるところ、いずれの世界であれ、片方だけですべての事実が説明できるということはない。どれほど費用をかけた給食が提供されようとも、満足しない子どもは現れるし、震災のあとなど、おにぎり一つに涙することもあるように受け手の問題が大きくもあるが、給食が栄養バランスの取れた貴重な食事になっていることも事実である。あるいは、教員免許状さらには専修免許状を保有する教員が必ずしも、児童生徒によくわかる授業をする訳ではないが、教員免許状を持たない者による授業が悲惨だろうことも容易に想像できる。ここで前者を「教育-学習」の論理、後者を公教育の論理と名付ければ、両者が葛藤することは明らかである。

こうした基本的構図にあって、公教育とくにその代表格である学校教育を経営・運営するとはどういうことか、それはいかに、どのように「経営」しうるのか、その議論そのものが論者にフィードバックをもたらすという点で意義があるのだと考える。学校経営の議論は、「こうすればよい」とか「こうしなければならない」といった、「答え」や「正解」にたどり着くことが目的ではない、二つの世界を揺れて悩み困りながらも、何らかの学校教育に携わる意思や勇気あるいは体力を持ち続けるよう誘うこと、いろいろと穿ってみて、視野を広げ新たな実践への意欲づけることこそが重要なのだ。
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by walk41 | 2012-10-14 11:14 | 研究のこと | Comments(0)
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教育学の一分野、学校とその経営について考えます。
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