人気ブログランキング | 話題のタグを見る

学校・教職員の現在と近未来 Gegenwart und nähere Zukunft der Schule und ihrer Mitglieder

教員養成という議論、再論-いただいたコメントへの返信

Eulenspiegelさま、コメントをありがとうございます。お名前から拝するに、ドイツにご関心がおありなのですね(^^)/。

>例えば教育大学を卒業した教師志望の方々に、例えばお医者さんのインターンシップ(?)のように、何年間か現場での実習を課する、というシステムはどんなもんでしょうか?大学を卒業して教員の資格を得た後に、現場での研鑽を積んで今の教育現場の実際や、教師は如何にあるべきか(現場の先生に対して肯定的にも否定的にも)を学ばせることは、いわゆる「教員養成(の高度化?)」とはいえないでしょうか?

先ほど、「何年間か」と考えたのは、一つの現場だけでなく種々の現場(校種?)での研鑽を積ませることを想定しましたので、卒業した方の取得された免許の種類や数にもよるでしょうが、小学校も公立だったり私立だったり、また養護学校(今は特別支援学校?)や中学校などにも派遣されて経験を積むべきかと思いますが、こんな考えは荒唐無稽でしょうか?<

いえいえ、決して荒唐無稽なことはないと思います。ただし、これらはおおよそ、OJT(仕事を通じて学ぶこと)に含まれるのではないでしょうか。つまり、「大学を卒業して教員の資格を得た後に、現場での研鑽を積んで今の教育現場の実際や、教師は如何にあるべきかを学ばせること」を、学生の身分で(つまり、学費を伴い、大学(?)の管理のもとで)行うことは、制度設計としてはたして妥当でしょうか。

たとえば、「大した仕事はできなくとも、学生にただ働きをさせることになるのではないか」「この期間、無給に近い状況で教職を志望する学生はどれほどいるのか」「この数年間は、評価によっては教職に就けなくなる可能性をはらむのか、それとも事実上、全員が合格となるのか」「それだけの学生を、初任者とは別に誰が対応するのか」「彼らには授業をさせるのか、それとも見ているだけなのか」といった点を考える必要があります。

とくに、量的な観点は重要です。毎年、教諭の一種免許状または二種免許状の授与件数はおよそ19万、全国の学校数は約38000ですから、単純平均すれば1校に5人くらい(もっとも、こうした制度になれば「とりあえず教員免許状を取っておこう」という人は激減するかもしれません)。これだけの人数を、各学校が受け入れることができるでしょうか。また、彼らが観察やお手伝いする学校との連絡調整、定期的な配置換えの事務手続きやそのコストを誰が担うのかも大きな問題でしょう(私見では、ほとんど不可能な話だと思います)。

もう一つは、いろいろな学校種や、同じ学校種でも地域・規模・教職員構成などによる雰囲気や実際の違いを学ぶことは、確かに有意義ですが、そのいくつかを経験したからといって実際に赴任する学校はまた違っている可能性があり、学生であっても、有職者であってもさらに学ぶという点では同じこと、つまり養成として位置づける意味が弱い点です。むしろ早く現場に出てもらい、たとえば月に何回か大学院に来てもらって「論理」と「実際」の違いや関係について学び、考えるスタイルをとることによってこそ、「這い回る実践」(最前線の学校現場であたふたしているさま)から解放され、新しい発想と実践が可能になるのではないでしょうか。

つまるところ、
1.赴任した学校、あるいは担任する学級や児童生徒ごとに勤務環境は相当に異なるので、色々な経験を経てもなお「こうすればよい」と会得することは極めて難しい(医者のインターンシップとの違いはここにあります。ある疾患が、地域によって大きく異なるとは考えにくいでしょう。人間を生物的に扱う場合、答えは収束されようとしますが、人間を教育的に扱う場合は、答えが拡散するのです。これは現在の教育が「個に応じた」を旗印にしていることとも関わっています)。

2.「高度化」が高さ-深さを追求するという意味ならば、教育-学習に関わる人間にとってより重要なのは、左右の広がりという意味での「拡幅化」、子ども、教材、あるいは教える-学ぶということについて、発想上の壁を取り除き視野を広げることです。学校に通う期間を長期化することが「高度化」ならば、「大学における教員養成」は4年間で十分であり、それ以上、彼らを学校に留めおく必要は見出せません。「インターンシップのような形でやったら」という意見には、「ならば、早く働きに出て、色々な教職員、児童生徒、保護者、何となくの雰囲気を知ることで幅を広げることが良いのでは」と答えましょう。「お客さん」で学ぶことは少なく、自分の権限と責任(もちろん給与も)が伴って初めて、真剣に臨むようになるでしょう。人は、自分で動かなければ学ぶことはまったく限られます。

以上のように考えますが、ご批判を賜れれば幸いです。
by walk41 | 2013-02-09 09:21 | 学校教育のあれこれ | Comments(1)
Commented by Eulenspiegl at 2013-02-09 23:02 x
さっそくのご返信ありがとうございました。お察しの通りドイツビールとソーセージをこよなく愛する者です。
さて、少々当方の言葉が足りませんでした。私が考えておりました「実習」は教員免許を取得した後にできるだけ現場で研鑽を積めばよいのでは、ということです。ただ、あちこちの学校で何年間かというのは、お医者の仕事内容との比較でご指摘いただいたように、教育の場では不適当ですね。ならば例えば、教員免許を取得した後に赴任する予定の学校で(せめて何か月間かの)研修を課すというのはいかがでしょう…教員としての身分であれば(学費を伴わず、大学の管理下でなく)おのずと本人の自覚もうまれると思いますが、楽観的すぎますか?私も、教員養成機関での学問的追及(?)のみでは、ただの「畳の上の水練(古すぎますか?)」になってしまい、現場では何の役にもたたないように思います。ただ、この考えにしても結局、新任の教師の補佐役として現場のベテランの方々に負担を強いることになりますけど。
<< 言葉の力 ああロバート・キャパ >>



榊原禎宏のブログ(Yoshihiro Sakakibara Blog) 教育学の一分野、学校とその経営について考えます(um die Schule und ihre Verwaltung und Management)
カテゴリ
以前の記事
2024年 03月
2024年 02月
2024年 01月
2023年 12月
2023年 11月
2023年 10月
2023年 09月
2023年 08月
2023年 07月
2023年 06月
2023年 05月
2023年 04月
2023年 03月
2023年 02月
2023年 01月
2022年 12月
2022年 11月
2022年 10月
2022年 09月
2022年 08月
2022年 07月
2022年 06月
2022年 05月
2022年 04月
2022年 03月
2022年 02月
2022年 01月
2021年 12月
2021年 11月
2021年 10月
2021年 09月
2021年 08月
2021年 07月
2021年 06月
2021年 05月
2021年 04月
2021年 03月
2021年 02月
2021年 01月
2020年 12月
2020年 11月
2020年 10月
2020年 09月
2020年 08月
2020年 07月
2020年 06月
2020年 05月
2020年 04月
2020年 03月
2020年 02月
2020年 01月
2019年 12月
2019年 11月
2019年 10月
2019年 09月
2019年 08月
2019年 07月
2019年 06月
2019年 05月
2019年 04月
2019年 03月
2019年 02月
2019年 01月
2018年 12月
2018年 11月
2018年 10月
2018年 09月
2018年 08月
2018年 07月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 04月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
フォロー中のブログ
最新のコメント
共著論文、掲載&公刊され..
by 土肥いつき at 18:24
yoralyさま、はじめ..
by walk41 at 14:51
Hanna Arendt..
by yoraly at 18:58
はんすさま コメン..
by walk41 at 15:50
さかきばら先生、こんにち..
by はんす★ at 12:22
堀口くん、お久しぶりです..
by walk41 at 20:31
生徒の感情としては関係性..
by 堀口渉 at 00:33
さすらいの教師さま ..
by walk41 at 15:34
こういった事例を聞くに(..
by さすらいの教師 at 09:48
本ブログを拝読する中で、..
by さすらいの教師 at 10:27
メモ帳
ライフログ
検索
タグ
その他のジャンル
ブログパーツ
最新の記事
わかりにくい
at 2024-03-11 20:15
人類
at 2024-03-09 07:42
トランプ
at 2024-02-29 17:15
それぞれの学校
at 2024-02-27 08:28
「教員不足」とその対応
at 2024-02-22 07:31
fight-or-fligh..
at 2024-02-18 09:32
仰げば尊し
at 2024-02-15 15:51
誰にもどこでも承認される生徒..
at 2024-02-11 16:21
勘違いを生みかねない教育議論..
at 2024-02-11 14:36
学校で団結を求められたのは当..
at 2024-02-11 14:22
外部リンク
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧