相手次第
ある学生が卒業論文でM.Buber(1878-1965)の"Ich und Du"(『我と汝』1923)を取り上げた。査読をしたが、十二分に記述できていたことに関心したし、私も「我-汝」と「我-それ(Es)」との関係についてより整理された。勉強になった。
大学でもシラバスを事前に入力することが求められ、以前の職場ではいつぞやの学長の「シラバス通りの授業をしているか確かめる」と、およそ人間を理解しているとは思われない発言に接したこともあるが、こんな問題の解き方をすでに久しく前に思索、表現していた人がいたのだなあ。 教育-学習という関係が、教えられる側の主体性を無視できない限り(教えられたとおりになることに価値を置くのではない限り)、教える側は教えられる側の彼らに出会う前に、教える内容と方法を定めることはできない。 なぜなら、教えられる側(学ぶ側)が教える側と教えられる内容を受け止めて初めて、教えられる(学ぶ)が成立するのであり、出会う前から相手に受け止められることを前提にはできないからだ。 このことは、教える側にもあてはまる。教えられる側をはたして自分は受け止めることができるのかどうかは、出会ってみなければわからない。つまり、何を教えるのか、あるいはそもそも教えることができるのかすら、出会ってからようやく考えることができるのである。 「我-それ」という関係ならば、相手の都合に関わりなく自分のあり方、動き方を決めることができる。石を割る、木を削る、動かないか動きがゆっくりした対象ならば、制御するのは容易であり、計画も立てられる。 これに対して「我-汝」は、相手の様子がわからなくては計画の立てようがないし、また相手は変化が激しく安定せず(とくに小・中学生はガサガサと落ち着かない)、さらに接する自分そのものが相手に影響を与えてしまう(「カッコイイ」「ダサい」「ウザイ」-どう思われるだろうか)ために、対象として確定するのがすこぶる困難なのだ。 相手も同様である。自分がどうあるかは近くにやってくる相手に左右されるし、教室で考えれば、教員よりもクラスメイトとの関係がより重要になるから(何しろ、座る場所が決められて自由に動けず逃げようがないのだ)、「こんな子」とラベルを貼られても(「見とり」)困る。違う学級だったら違う様子を見せるのだけれどな。 こんな相手次第の世界に、学校は満ちあふれている。そんなところでPDCAサイクルを回すとか、効果的な教育実践と銘打たれても、実際には無理な話なのだ。だから、学校評価や教員評価はどうしても二重帳簿、つまり公然の秘密が横行することになる。学校教育の可視化や数値目標といった発想と仕掛けは、教育委員会も巻き込みながら、校長はじめ教職員を嘘つきにするのである。
by walk41
| 2013-02-11 12:26
| 学校教育のあれこれ
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