関与と責任
斉藤環の東北「組織の病理と粘り強い記憶」(毎日新聞、20130227)を読む。
池上正樹、加藤順子『あのとき、大川小学校で何が起きたのか』(青志社)の読後感から始まる一文だが、あの地震のあと学校の裏山に逃げようとした児童を、学校に連れ戻した教師がいた、という話には驚かされた。この本がどちらかといえば保護者サイドに立った書きぶりであり、教育委員会ほか公的機関の見方をあまり述べていないという説明を聞いた上でも、である。 学校で預かっている限り、教職員に責任があるというのはもっともだ。ただし、大地震、津波の危険といった緊急時にも、これは適用されるのだろうか。教職員がパニックになっていた可能性も考えられる中で、いかに「適切な指導」ができるというのだろう。責任を担えないような状況でこれに固執することは、被害を拡大させかねず、おそらく大川小学校では実際にそうなった。 「教育再生実行会議」によるいじめ対策も同じだが、関与することが他の災いをもたらすこともあるという発想が、基本的に欠落しているからだろう。「机上の空論をしていないで、とにかく何かをすることが大切」と。たとえば、冬山で遭難者が出た場合、捜索隊が救助に向かうけれど、時間や天候によっては捜索を休止、ときには打ち切りということもある。二次被害を避けるためだ。遭難者の数を上回るような被害を出すようでは、何のための救助かわからない。命を救うという誰も異論を唱えないだろう行動に対してすら、こういう冷静な判断がなされるのだ。 ところが学校教育では、善悪や適否の判断がきわめて難しいことが多い。いじめはいけないからと、教員がこれに関与して責任をどこまで負いうるのだろうか。微妙な力関係上で成り立っている友人関係もあるだろうに。そして、いじめに教員が関わることで生じうる効果(関係する子どもの友人関係への影響、直接には関係しない児童・生徒への影響、教員の肉体的・精神的負荷など)は勘案されているのだろうか。その上でなお、提案するような関わりを求めるというのならば、わからなくはない。しかし、そうした条件闘争についての思考実験をいっさい経ないのが、学校教育のお喋りの特徴である。 学力向上についてもそうだ。これが向上することのマイナス面は何か、あるいは講じられる方策に見合うコストと結果とのバランスは取れているか、何も考えられない。「学力向上って大事でしょ」で終わりである。「良いことだからやるべき」(良いかどうかの判断すら、つかない場合も多いのに!)という一本調子、だから威勢良く、心地良くも聞こえる語りが支持されもする。この点で「わかりやすさ」は危険である。 よく思うのだが、実践とは主体によっていかにでもできるようなものではなく、相当に限られているのではないか、そもそも主体性なるものが、それほど確かなものではないのではないか、その意味で教育実践という言葉も、あれこれと限られた条件の中でなお、できそうな余地として捉えるべきではないかと。だから、授業の指導案にも「予想される子どもの反応」だけでなく、「予想される教員の反応」も記しておくべきでは、と辛口を言ってしまう。 「できないことはムリ」という勇気を、そのための見極めがよりできるように。まちがっても「なせばなる、何事も」なんてお気軽なことを考えないように、「ちょっと待てよ」と踏みとどまる力が必要なのだと思う。
by walk41
| 2013-02-28 13:21
| ことばのこと
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