全く思わなかった
過日、大学の授業体験といった感じで1コマ、90分をある高校で担当したが、その高校から生徒の感想文が送られてきた。
この授業では、「教える」と「学ぶ」との間のすれ違い、勘違いを取り上げたのだけれど、2年前に大学院生たちと書いた「授業中の『ペン回し』がもたらすもの」を紹介しつつ、現役高校生と、私の授業を聞いていた高校教員のいずれにも、「ペン回し」についてたずねてみたのだ。 すると、教員たちは「授業がつまらないんだなと思う」や「とても気になる」と否定的な受け止めをしていたのに対して、生徒たちは「何となく」とか「気がつけばやっているという感じ」と答えて、両者の違いは明瞭だったのだが、感想文もこの点について述べているものが多かった。 「ペン回しひとつでも生徒は無意識にしていることやけど、教えている先生からしたら、授業がおもしろくないとか、ひまとか、そうゆう風に思われているんやと思いました。ティッシュ箱も注意する先生もいればしない先生もいます。ほんとに人って、それぞれ感じかたが違うんやなと思いました」、「自分もペン回しをするので、先生の気持ちなどを知っておどろきました」、「生徒側が無意識にやっているペン回しも、教師側からしたら、いろんな思いを抱く行動なんだなと思いました。生徒と教師間でかいしゃくのズレがおこることは、よくあることだと知ってびっくりしました」、「私も何気なくペン回しをしてしまうんですが、先生はそれを見て、『退屈なんだな』と思ったりするのは全く知りませんでした。だけど先生も知らなかったはずです。私たちは授業が嫌だったり、暇だからではなく、本当何気なくペン回しをしているということは知らなかったはずです」 この他、授業中の「私語」についても言及したことを受けて、こんな感想もあった。「いつだって私語をしている生徒がわるいのではなく、その行為も人間関係の一つということを言ってて、先生の目線でこういう考えの人っているんだと思った」 どうだろう。子どもを見取るとか、生徒理解とか、年中言っているような教員でも、なかなか彼らの実像に迫れていないことの証左ではないだろうか。つまるところ、「人は見たいものを見る」という認知の選択的傾向を示すものだ。にもかかわらず、校内研究では、「本校児童の課題を焦点化し、重点的な方策を立て、全職員で共通理解した上で、学年の系統性を十分に踏まえ、積極的に取り組めばめざす子どもの育成ができるであろう」(和歌山県、小学校)といった、意味をなさない言葉のオンパレートである。こんな様子で、どんな授業研究ができるのだろう。さっぱりわからない。 授業計画や指導案にはおよそ示されないようなものが、実は授業を大きく左右しているということ、そのことに教員はもちろん、生徒ですら気づいていないことが多いという、不思議な世界、それが教室や学校ではないだろうか。 だから、仮説の検証であれ、振り返りであれ、いずれも自分たちが事実を認知できるはずという前提が相当に怪しいことを確認する必要がある。何気なく振る舞っていること、何となく発している言葉、こうした事実があるにもかかわらず、自分たちではなかなか気づけないということ、かといっていつも部外者にいてもらうこともできないということ、このジレンマの中に教職という仕事があるように思う。
by walk41
| 2013-05-03 08:54
| 学校教育のあれこれ
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Comments(4)
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式部
at 2013-05-04 07:13
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度々失礼します、私の経験からですが座位のまま説明される場面になった折にペンまわしをしながら説明する方にあいました。ペンまわしをしながら説明された内容が重要なものでも受ける側にとっては価値が下がったものに見えました。両方からの視点で受ける印象を知るのは面白いものですね。
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walk41 at 2013-05-04 08:22
式部さん、いつもコメントをありがとうございます。いわゆるペン回し論文、http://cert.kyokyo-u.ac.jp/journal11/22.pdf の一つのきっかけになったのは、ペン回しをしながら患者に説明をしたという医師への不快感を述べた投書でした。学校でも家庭でも、「思いもしなかった」あれこれが転がっているのだろうと想像すると、怖くもおもしろい世界だなあと思わされるのです。
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式部
at 2013-05-04 15:41
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ペンまわしの論文興味深く読ませていただきました、そしてはるか昔の生徒時代の気持ちを思い出してまた納得しました。
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walk41 at 2013-05-04 17:20
式部さん、早々にお読みくださり、ありがとうございます。共著の大学院生たちも喜ぶことでしょう。本邦初かもしれない、イラスト入りの論文です(^^;)。
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