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学校・教職員の現在と近未来 Gegenwart und nähere Zukunft der Schule und ihrer Mitglieder

相関と因果

授業とくに演習やゼミでは強調する。学校教育に関する議論のほとんどは、相関についてであって、因果まで明らかにできることはまず難しいだろうこと。また、相関関係ですら実証することは決して容易でないこと。だから、まずは相関が見出せるかどうかを試みること、もしそれに成功したら、因果まで展望できるかどうかをさらに考えてみることと。まちがっても、相関関係が確かめられたから因果関係もそのまま言えるとは考えないこと。さらには、相関関係すらはっきりしないのに因果関係を確かめようなどと考えない方が賢明なこと。

たとえば、近年の調査では、高所得層は野菜の消費量が多いことがわかっている。このことと、低所得層に肥満が多いということと合わせ考えるとなお興味深いが、仮にそういう傾向、つまり相関が見られたとして、高所得だから野菜をたくさん食べるのか、たくさん野菜を食べると高所得になりやすいのかどうかまでは、定かでない。疑似相関と呼ばれる、まだ隠れている変数があるからかもしれないから。

同じような例に、血圧と所得の関係が挙げられる。血圧の高い人は低い人に比べて所得のより高いことがうかがわれるが、だからといって、血圧を上げれば、所得が上がる保証はまったくない。一つ考えられるのは、所得が高いのは平均して年齢が高いからであり、それが血圧の高さに連動することは十分に説得的だということ。おそらく逆ではない。

丁寧に議論しようとすれば、論理に関わるこうした作法を身につけていなければならないにもかかわらず、とても不思議なことに、学校とくに小学校・中学校では、「~すれば、~になるだろう」と、まだ相関関係すら証明できるかどうかわからないのに、因果関係を仮説し、これを証明しようという無謀なことに乗り出す。

ところが、「開かれた学校」を標榜するような環境では、条件統制が基本的にできないのだから、因果はおろか、相関でも明らかにできるかどうかは極めて不透明である。たとえば、「進学校」の進学成績が顕著だとして、それは、学校とどう相関していると証明できるのだろう。塾や予備校の教育力、家庭の文化資本、友人関係や地域的特性など、可能性のあるだろう変数がいくつも挙げられるにもかかわらず、即、そうした学校であることが関係している、といってよいのだろうか。そして更には、そうした学校であれば、進学成績が出せると、事象の起こる順序まで判断できるのだろうか。

にもかかわらず、校内研究と称される活動の多くは、こうした因果関係を想定した実践というスタイルを取っている。「~すれば、~になるだろう」というパターンである。ところが、こんな証明ができない(仮説どおりだったかどうかはわからない。つまり、何とも言えない)ことは、当の教員たちがわかっているから、折り合いをつけるべく、無意識にかもしれないけれど、文章は限りなく同義反復に近づき、「表現活動を仕組めば、表現する子どもが育つだろう」といった、学校外の人が読めば、目が点になるような作文に呻吟しているのが多くの実情である。「宿題を減らしたら、保健室に来る生徒が減るだろう」といった、変数間の距離が少しは認められるような仮説が示されることは、まずない。

そこからは、学校で困っている悩みを解決、改善したいという思いも伝わらず、手だても見えない。わかるのは、やらされ仕事あるいはやっつけ仕事をしているのだなあということ、そして具体的なアイディアが教員には貧困なのだなあということである。

こんな身も蓋もないような書き方はしたくないのだけれど、もっと笑い飛ばして、さあ何とかしようよと言いたいのだけれど、こんな体たらくが長く続いているのに、今なお見て見ぬふりをしているのか、ひょっとして気づいていないのか(これこそ、学力問題だ)、教育委員会からも教職員組合からも、あるいはサークルや研究会などからも、ほとんど異論や批判が聞こえてこないことを、まったく残念に思う。私の言い分が的外れなのか、それともこのままルーチンを決め込んで、時間が経つのをひたすら待つという逃げの姿勢ゆえか。誰か教えて下さらないだろうか、本当に。
by walk41 | 2013-05-16 22:57 | ことばのこと | Comments(3)
Commented by ポッピーママ at 2013-05-19 06:47 x
榊原先生、こんにちは。
こういう仮説検証型の研修のルーツって、何なのでしょうね。私は教員生活30年を過ぎたのですが、初任のころはそうではなかったはずと記憶していますが。指導主事の学校訪問指導が頻繁になり強化されるようになってからなのではと考えています。(北海道だけなのかもしれませんが。)
教職員組合は、残念ながら、教師としての力量を伸ばすための場の設定と人的資源に乏しいです。組合研修も、マンネリ化していて、イデオロギーバイアスがかかっていて、ちょっといただけません。
経験年数が多い教師ほど、自分のこれまでのやり方に固執する傾向があり、新しいものを受け入れようとしませんね。問題は、四十代五十代の教師だと私は思っています。
Commented by walk41 at 2013-05-19 08:36
ポッピーママさん、コメントをありがとうございます。そちらの桜はそろそろでしょうか。こちらは、ツツジがそろそろ終わりを告げようとしています。

さて、「仮説-検証」型の校内研究(校内研修)の由来について。大なり小なり、北海道から九州まで見られるので、発信源は東京あたりではないかと勝手に想像していますが、とまれ、全国的に見られる傾向でしょう。仮説、検証あるいは実証と明らかに謳っていなくても、論理的には「~すれば、~になるだろう」という形式に収まっている点ではいずれも共通します。

拙ブログ記事に即せば、相関関係が明らかになってすらいないのに、因果関係を論じようとします。ところが、そんなことは明らかにならないよなあ、って教員自身が(教育委員会も)わかっているので、同義反復の文言になっているのです。この形式に則ってやる、事前研や研究授業、事後研が「消化試合」にならざるを得ないのは当然でしょう。

Commented by walk41 at 2013-05-19 08:36
教職経験の長い教員が保守的で、新しいことに挑戦しないということ(子どもには、それを求めながら)、置き土産としてぜひ励んでほしいのですが、何が彼らに火をつけるのでしょうか。教育委員会、学校管理職も困っています。さりとて、自分で変わるしか仕方がないというのも教職の特徴でしょう。こうして膠着あるいは閉塞、ダラダラ状態がいま続いている、とも捉えられるのではないでしょうか。

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榊原禎宏のブログ(Yoshihiro Sakakibara Blog) 教育学の一分野、学校とその経営について考えます(um die Schule und ihre Verwaltung und Management)
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