習得主義に耐えられるか
「習得主義へ教育改革を」(毎日新聞、投書、20130801)を読む。「オランダと韓国での先進的な教育事情を知るにつけ、日本の貧弱な教育状況に危機感を抱かずにはいられなかった」と投稿主。「隣の芝生」はどうしても避けられないのだろうけれど、もっと丁寧に考えてから書いてほしいなとも思う。ユートピアのようなところは簡単には見つからないことを踏まえて。
「自己決定にもとづく個人主義と習得主義を重視するオランダの学校では個別学習が基本という」らしい。日本もこれに倣って、「単に履修したから良しとするのではなく、個人の状況に合わせて習得できたかどうかを重視することが子どもたちの本当の学力向上のためには必要だ」と主張される。 習得したかどうかで子どもを評価する、つまり、「頑張っていたから」とか「みんなと離ればなれになるのはかわいそう」といった思惑を排除するのは、確かに一つの考え方だ。それは、能力は個人に宿るものである、習得されたかどうかは客観的に測定できる、努力の過程よりは結果が重要である、といった発想にもとづく。いわずもがな、この反対の発想、みんなで助け合って問題を解決できればよい、関心・意欲・態度など測定できない要素も学力には含まれる、結果よりもそれに至る過程が大切、などは排除される。 さて、私たちが馴染んでいる生活スタイルには、どちらの考え方が適っているだろうか。いじめでクラスメイトを死に追いやっても、保護者は出て来ず、頭を下げるのは校長や教育長と個人の責任が問われない、電車とプラットホームの間に挟まれた乗客がいたとき、たまたま居合わせた40人もの人々が職員と一緒に車両を押す、不登校生徒に「卒業式くらい学校に来いよ」という教員の言葉が美しく語られる-こんな社会において能力や結果を個人に帰属させ、自己責任を強調するような仕組みを学校教育に導入することは可能だろうか。 グローバル社会ではそうなのですよ、という人もいるかもしれないから、そう考えてみよう。電車に慌てて飛び乗り、目的地までの正しい切符が買えなかった-車内で検札、違反金を取られる、頑張って勉強したけれど大学受験に失敗-受験資格は2回まで、ダメだったら諦めてね(ドイツの場合)、黙っているから友だちがほしいなんて思わなかった-「みんな転校生に声を掛けてあげてね」なんて言われない。こんな感じだ。 乾燥派(dry)か湿潤派(wet)か、個人的か集団的か、「ヤマアラシ理論」とも言われる人間関係の距離の取り方は矛盾もしているけれど、このいずれに近いかで社会を類別できるならば、日本はおそらく後者である。この社会に前者の発想を取り入れることが果たして可能だろうか。センター入試で受験会場を間違えた受験生には、その場で受験させるように、と実施マニュアルに書いてあるような国で、あるいは新幹線の停車駅を間違えた受験生に、車掌が機転を利かせて臨時停車させたことが美談になるような社会で、自己責任などどのように果たすように求めることができるのだろう。 履修主義から習得主義に変わってもいいけれど、本当に耐えられますか、みなさん。
by walk41
| 2013-08-02 09:36
| 学校教育のあれこれ
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