学校・教職員の現在と近未来-榊原禎宏のブログ

ものづくりとの違い

民放、ガイアの夜明け、日本の町工場が作り出す素晴らしい技術を紹介する。

その一つ、水や油を注がないのに1時間ほど熱すると、材料の肉や野菜だけで美味しいスープやシチューが出来上がる鋳物の鍋を作った会社。それを支えるのが、0.01ミリメートルと違わない、鍋と蓋とがぴったり収まる加工技術だ。

売り込みを賭けた先で、最初は半信半疑なアメリカ人女性が驚嘆する。これならば、自信を持って薦められると。

あるいは、節水機能の高いシャワーを開発した会社。あわせて水圧を上げ、また肌にも優しい水流を実現した。これは、恒常的な水不足が見られるシンガポールで販売を試みている。

こうしたシーンに接するに、学校教育と2つの点で大きく違うなあ、この世界ではとても勝負できないなあと強く思わされる。同じ土俵でやっても勝ち目はない、違う世界で頑張るしかないやん、って。

その一つは、再現性の高さだ。世界どこでやっても、水を足さずにシチューができる鍋が存在し、節水能力が高いシャワーも同様である。「ここではちょっと難しくて」とか「今度はうまくできると思うんですが」といった釈明や弁解は不要、だって、宣伝どおりにちゃんとできるんだから。

もう一つは、再現性の精度の高さである。たとえば、「この鍋で10回料理をしてもらえれば、5回はお話しているようにできます」は、再現的だが精度が低い。毎日の料理を確かなものにしたい人には、あまりにも冒険といってよい商品だ。「まず間違いなく、宣伝通りにできる」でなければ、キッチン用品として買う人は限られるだろう。

かくも、ものづくりの世界は、高い再現性を担保することを前提に研究開発が行われている。さもなければ、誰も欲しがらない。これに対して、学校教育はまず、再現性をほとんど保証しない。教科書や副読本あるいは教具・教材は、ある物(ぶつ)を要するから、まだ客観的に議論できると思うが、それですら最終的には使い手によって意味づけられるから、同じ教科書が同じ影響をもたらすとは言えない。ましてや、教材研究とは異なる授業研究において問題になるべき、教員や生徒について研究することはほとんど不可能である。

なぜなら、教員は属性、教育観、キャリア、やりがいなどの点で、およそ条件統制ができず、くわえて、統制すべき条件に観察しようとする教員が含まれる、すなわち自己言及的な点で、そもそも事実を測定できないという、大きな限界を持っている。

また児童生徒も、その日の天気や人気チームの成績、あるいはクラス内の友人関係によって、それぞれに彩りを変えるから、いくら授業を観察しても仮説じたいを立てることすら叶わない。そもそも、生徒の人数は学校や学級編成の都合から決まるのだから、学級規模を想定することすら事実上、不可能だ。あまたの授業論は、何人の生徒の場合について話しているのだろうか。さっぱりわからない。

そして万が一、似たような授業が再度生まれたとしても、その精度は呆れるほどにいい加減である。「先生、今の時間、ええ授業やったわ。次の時間も同じような授業、見せて」と頼まれても、ほとんど無理な話だから。つまり、あまりに大らかな精度でしか、学校教育の話はできないと言うことを、自ら語っていることになる。

繰り返し同じことが、しかも相当に同じようなことが起こることを目指して学校教育を設計できないのであれば、「いかに教えれば望むような力を獲得するか」とか「どんな風に教室を設計すれば、子どもが望む力を身につけるのか」といった話は、端から成立しないし、仮説を立てて議論しようとすること自体が間違いである。

これを一言で言えば、極める、収束する方向の議論に学校教育はまったく似つかわしくはない。そこに残されるのは、極めず、こんなこともあるよと、拡散する方向での議論に寄与することである。

豊かな授業や指導を考えるには、既存に満足しない「ふてぶてしさ」を大事にすること。そして、異なる見方や考え方をより含んで考えられるように。これでこそ、臨機応変の様さが活かせる。なのに、精密さを先ず間違いないといった水準で求められるものづくりの後を追ったところで、何になるというのだろうか。なのに、「生き生きと」「学んでいる」と再現性の欠片すら見当たらないような、自己満足のお喋りを、一体いつまで続けるつもりなのだろう。
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by walk41 | 2013-08-16 23:21 | 学校教育のあれこれ | Comments(0)
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教育学の一分野、学校とその経営について考えます。
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