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学校・教職員の現在と近未来 Gegenwart und nähere Zukunft der Schule und ihrer Mitglieder

反面教師としての学校

50の齢を迎えると、これまでの人生を振り返りたくなるのか、あちこちから同窓会の誘いが舞い込むようになる。

その頃に出会ったクラスメートに否定的な感情を抱いている訳ではさらさらないけれど、少なくとも当分は、きっと出かけないだろうと思う。まあ日程的に合わないのがほとんどなのだけれど…。それはなぜか。

たとえば、中学校。まったく理不尽なことが多かった。アルファベットを習い始めた1年生に、最大公約数(Greatest Common Measure)や最小公倍数(Latest Common Measure) の意味のみならず英単語までを覚えるように求め、「わかりません」と答えた女の子に、「わからないんじゃない。忘れましたと言うんだ」と返した数学の教員、「BC(Before Christ)紀元前」をあろうことかBefore Century と教え、そこで止めれば良かったのに、「だから、紀元後はACはAfter Century、あれ、ADですね。まあいいでしょう」と「AC(Anno Domini)」に至らなかった英語の教員。

全校集会で朝礼台に立ち、拡声器で生徒を名指しして怒鳴るような体育の教員、新婚旅行で休暇取得、戻ってきた授業で、いかに自分の結婚日がめでたいかを喋り続けた社会の教員、「美術教育の目的は情操の涵養」とオウム返しを続けた美術の教員(もちろん、定期考査にも穴埋めでこの文章が出た)と、昨今でいえば、「問題教員」のオンパレードのような学校だった印象があまりに強いのだ。きっと、個人を越えた学校というシステムの問題でもあるのだろうが。

もちろん、いじめもあった。私も加害の側にも被害の側にも回った。いじめられた男子が「逆ギレ」して教室の机や椅子を投げるなんてこともあった。そんな様子を「見て見ぬふり」をする生徒は日常茶飯だったし、教員も無力だった(というか、こうした問題を教員がどうこうすべきという観念が、生徒の側にまったくなかった。先生に「いじめを止めさせて」なんて考えなかったはずだ。今の言説を見るに、隔世の感がある)。それどころか、風邪かインフルエンザかに罹っていたのに、生徒の前でマスクもせず延々と話し、結果、高校入試直前の時期、学級閉鎖になるほどの影響を及ぼした。保健体育の教員がである。

動くにはすこぶる不具合な、しかも結構高価な制服を買わされ、ちょっと激しく動くと割れたプラスティックのカラーを何度も買いに行くはめになった(カラーをしていなければ校則違反だ)。髪の毛の長さを小姑よろしく指摘され、嫌みを言われた。それでもまだ成績が悪い方ではなかった自分は、多少の「目こぼし」にもあずかった。「心の乱れは服装の乱れ」という誤った信念が支配的だったのだ。野球かバレーボールをやりたかったが、五分刈りにすることなどと聞くとその気も失せた。

とまあ、尽きないエピソードがある(それでも、学校批判など起こらなかったし、「モンスター・ペアレント」などいるはずもなかった)。当時の情けない自分の様子を含め、あの頃をフラッシュバックさせるような場に身を置きたくないのだ。これは私の主観的な受け止めだから、もちろん違う思い出があって然るべきもの。あくまでも私にとっての学校風景にすぎない。だから、ごめんね。同窓会の幹事をしてくれている人には申し訳ないけれど。

それでも感謝すべきことはある。決して大げさではなく収容所のような、あるいは工場のような生活を送ったことに大きな疑問に感じ、高校生の後半に進路を決める際、教育学というものをやってみようと思うきっかけをくれたのだから。幸せな学校生活を送っていたら、おそらく今の道に進まなかっただろう。

この歳になっていい加減に達観すべきなのだろうが、いまなお、私にとって学校生活は反面教師のままだ。なんと不健康なことに、こうした経験に対する怒りが、論文を書く原動力になっているのである。幸せなのか不幸なのかはわからないけれど。
by walk41 | 2013-10-19 14:45 | 学校教育のあれこれ | Comments(2)
Commented by ポッピーママ at 2013-10-20 08:54 x
こんにちは。
こちらは、ものすごく寒くなりました。朝、霜が降りています。手袋なしでは早朝の散歩はムリ。
いろいろ考えます。うちの学校、20代の若手男性教師が4人いて、そのうち一人だけが教員採用試験を受かったばかりの初任者、あと3人は、まだ受かっていない期限付きの教員。で、受かった人とそうでない人の違いってなんだろうとしみじみ思います。はっきり言って、わかりません。なぜ、この人だったんだろうか。はっきり言って、人柄の良さや優しさ、謙虚さ、学ぶ姿勢などは、受かっていない人のほうがはるかに優っているんですよ。……って、私の個人的な好みかもしれませんけど。しかるべき管理職や指導主事が面接試験で判断しているのでしょうけどね。
Commented by walk41 at 2013-10-20 10:35
ポッピーママさん、こんにちは。京都もずいぶんと涼しくなりました。とはいっても、ようやく半袖から長袖(しかも、だいたいは腕にたくし上げて)に変わったくらいですが。

教職には、職務と人格を分離しがたいという特徴があるために、どうしても曖昧さが残ります。仰るように、なぜこの人なのだろうか、と。採用試験を優秀に通過しても、どうして生徒とラポールが築けないのかわからない、とある管理主事が若い高校教員を指して言います。私などは、手間がかかるけれど、キャンプ合宿でもして見たら、などと無責任なことを言いますが。キャリアを経る中で変わることは往々にしてあるのでやむをえないとは思いますが、若い時点でご指摘のようであれば、それは見抜かねばなりませんね。いやはや。
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