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学校・教職員の現在と近未来 Gegenwart und nähere Zukunft der Schule und ihrer Mitglieder

不正論文

東京大学生物学系の研究所から発表された論文51本に、不正の疑いがあるとのこと(朝日新聞、20131227)。それが確定的となった場合、関係者の学位の剥奪や研究費の返還請求もありうるという。

以前の拙ブログに書いたが、こうした自然科学の研究作法と異なって、社会科学の場合は、再現性が担保されないから、とても皮肉なことに、こうした理由で責任を追及されることがない。この意味では、自然科学はまさに科学だなあと思わされる。真理を追究する分野では、白黒はっきりつけるのが不可欠だものね。

この点で社会科学は、まあいい加減なことだ。大昔では「早晩、社会主義革命が日本に起こる」と講義した教授も、私が学生だった頃では「ポスト資本主義社会の今日、学校教育ではなく生涯学習がこれからの基調だ」と言った教授も、そして昨今では「フィンランドの教育を見習うべきだ」と叫んだ教授も、誰も何の責任を問われることはない。言いたい放題、放談の連続である。自らの言でひょっとして惑わせたかもしれない人に対する責任は問われないまま、こうした物言いをした面々は、どのように総括をしているのだろうか。そもそも、こうした反省をしなければならないと思っているのだろうか。それにすら気づくことなく、すでに鬼籍に入った人もいることだろう。

こうした社会科学からの自然科学に対する憧れの眼差しを云々してもしかたがない。では、社会科学の端くれである教育学では、どんな研究的責任を負うべきなのかと話を進めよう。

私の考えでは、教育学の価値は再現性、ひいては普遍性の追求にあるのではない。それはまさに無い物ねだりである。教育関係は時代と地域によって様々、それらは刻々と変化する。昔の教育実践を誰も参考にしないこと、そして、校内研究ほか○○研究が何ら蓄積をしえないことはその証左だ。

だとするならば、研究という言葉が示すような究めるとは正反対の方向、広げる、解釈を繰り返すこと、つまりは問うこと(問いを学ぶ-学問)、と考えるのが生産的ではないだろうか。つまり、自分の論文が何を批判し、どんな新しい解釈(把握)を示すものなのか、そしてその見方はどのような新しい指摘によって批判、凌駕されるものなのかと、よりメタ的に自身の限界を述べながら示すことである。

時代や地域によって、見ている教育(-学習)関係は一様でなく、その解釈も多様である。その世界で物を言おうとするものが踏まえるべきは、自身の解釈を支える認識上の特徴とそこから構成される論理(重ねて、理論ではない!)の意義と限界を論文の中で提示することである。それらがしっかりと整理されているならば、やがて次の世代に、批判的に取り上げてもらえる栄誉に浴することができるだろう。


by walk41 | 2013-12-27 21:03 | 研究のこと | Comments(0)
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榊原禎宏のブログ(Yoshihiro Sakakibara Blog) 教育学の一分野、学校とその経営について考えます(um die Schule und ihre Verwaltung und Management)
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