「ともに学ぶ」ことと教育制度
近頃、とみに生き急いでいるせいか、「あんなことをやってみよう」「こんなことを調べてみよう」と気持ちが強く、落ち着かない。五十路を歩いているのに、まあ青いことである。
近々に考えていることなのだが、「子どもたちがともに学ぶ」という理念を実現するために用意される制度という仕掛けには、少なくとも2つのパターンがあるのだなあと、改めて思わされる。 その一つは、ともに学ぶとは、資質や能力が似たような者どうしが望ましいから、学校やコースによって分化を促し、それぞれにふさわしい環境を整えることがよい、という考え方だ。ハリーポッターのホグワーツ魔法魔術学校のように、魔法のできる者だけが入学できるという制度(これはイギリスのpublic school の考え方でもある)である。社会の分業の進展に即した考え方であり、差異性に注目する。「餅は餅屋」の考えとも言えるだろう。 もう一つの考え方は、ともに学ぶとは、異なる者どうしでこそ意味があるから、分化をなるべく遅らせて、多様性のもとで、いろいろな共通経験をさせることがよい、というものだ。日本の学校で給食、掃除、部活動、あるいは朝の会や終わりの会などが9年間も続くことを指して、「社会主義的」とも評価するのは、その共通性(全体主義的性格)を見てこそである。さらには、ここから「脱北」したい子が不登校を企てる、との解釈にも連なる。この経験が大震災の際など、暴動や略奪が起きにくい理由とも捉えられる。 大人の言い方をすれば、結局はこのバランスよ、とのことになるのだろうけれど、制度や組織としてこのバランスをいかにとることができるか、を明示するのは容易でない。制度は価値の一般化を促し、「当たり前」に見せる力が強いから、じきに硬直する。制度は官僚制に支えられるので、複雑な現実を前にしても「どこにそう書いてあるの?」と言われると、柔軟な対応は何度も挫折する。「杓子定規で対応するな」と愚痴るしかないのだ。かといって、「まあ、ええんとちゃう」では公共性を担保できないことも確かだ。「説明責任」「見える化」はドイツでも喧伝されている。 この難問をひとつ解決しようとする考え方が、ドイツにはあるように思う。「隣の芝生」かもしれないけれど、それは、前者の考え方を残したまま、つまり大学進学を前提とするギムナジウムは維持したまま、それ以外の教育課程を多様なものとして、生徒の進路選択を遅らせるという、「二兎を追う」発想(ドイツ語で、Zwei Saeulen 二本柱、とも呼ばれる)である。 あるいは、良い制度だからそちらに来させるべき、というのではなく、親権者(保護者)と子どもの選択権を重んじる点にも「二兎を追う」発想を見出せる。日本では、たとえば、大阪での「地元集中運動」とみんなで詰問しても他の学校には行かせない、と強い社会的同調を求めることがあり、今も八重山地区での教科書採択などに見られる。「多数派の勝ち」という見方だ。 これに対してドイツでは、子どもの教育は第一に親権者の権利であり、それと同時に国家(州)の学校監督のもとにもあり、さらに教員個人の「教育上の自由」や学校会議による学校の権限も認められているという「緊張と均衡」が見られる(この点に興味のある方は、榊原禎宏・辻野けんま「公教育の質保証における学校の自主性・自律性と教員の「教育上の自由」の定位」『京都教育大学紀要』119/155-167、2011、をご覧ください。Web上にあります)。 わかったようなことを言えば、複数の制度を用意し、権限と責任も、敢えていえば当事者間で葛藤させるように配し、議論することに意味を与えるという発想ではないかな、と思うのだ。もしこんな整理ができるのであれば、「わかりやすい」「効率よく進められる」という価値は低く、むしろ「わかりにくい」「時間がかかる」ことに価値が置かれていることになる。 それこそ、どちらが良い、さらにはどちらが優秀などとは決して言えないけれど、私がドイツに惹かれる理由の一つは、この辺りにあるのかもしれない。
by walk41
| 2014-03-23 12:34
| 学校教育のあれこれ
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