「大学は4年でしょ」とは限らない
自分が申請した研究助成は採択されず(それなりに力を入れて準備したんやけど(>_<))、他人様の申請が通ったので、そのお手伝いということで新しいテーマを始めている。
とはいっても、大昔は修士論文を始め、このテーマに強い関心を持っていたことはあり、さりとて、時の流れとともに興味も気持ちも移り変わり…、とすっかり縁遠くなっているので、また一から(三くらいからかな)勉強のやり直しである。 さて、高等教育段階で教員を養成するという考え方は、日本では戦後はじめて現実のものとなった。それまでは中等教育機関としての師範学校や中学校で、教員への準備教育は行われていたのだ。 かたやドイツでは、ワイマール共和国期(1919-1933)に、ドイツ帝国憲法の条項に、「教員養成は、高等教育全般に適用される諸原則にしたがい、帝国として統一的に規定する」(Die Lehrerbildung ist nach den Grundsätzen, die für die höhere Bildung allgemein gelten, für das Reich einheitlich zu regeln.)と謳われたことから、その具体化について激しい議論が行われ、一部では高等教育で実施されたが、それが大勢を占めるには戦後を待たなければならなかった。 そのドイツにおける昨今の教員養成は、第一次国家試験の合格に替わって、修士課程修了を置く州が増えてきた。そこで日本の研究者が思いがちなのが、「あっ、学士課程にプラスして修士課程まで終えへんかったら、教員になれへんようになったんや」という勘違いである。 そう言えば、最近のPISAテストでの不振を受けてか、すっかり聞かなくなった「フィンランドは世界一の教育」と喧伝されていた頃に「教員は修士課程までを終えて」と合わせて紹介されてたなあ。フィンランドのことは知らないけれど、ドイツについてそう捉えると不正確になる。 というのは、たとえば1998/99年版のガイドと比較すれば、ベルリン州の場合、初等学校教員であれば、7学期(3年半)+2年間[4学期]の試補教員(任用取り消しのある公務員)、合わせて11学期かかっていたのに対して、2013年では6学期(学士課程)+2学期(修士課程)+1年間の試補教員、合わせて10学期、であり、正式な教員になるまで期間で見れば、むしろ短縮されているからだ。大学に通うべき学期数には、それなりの幅がある、ということを知らなければならない。 たとえば、私がいつも訪れるバ-デン-ヴュルテンベルク州では、同じく6+3、計9学期だったのが、現在は8+3、計11学期と長期化している。ちなみに、同州では学士課程や修士課程は基本的に存在せず、国家試験での合格が資格取得を意味しており、学士や修士という言い方はなされない。医師や薬剤師も同様で、学士、修士課程を経ても資格を得ることはできない。 つまり、「学士課程は4年だから、これに修士課程が加わったのだから長期化[高度化という人もいるが]している」と見るのが正しくないのであり、正しくは、大学在学期間は1~2学期延長されてはいるものの、その期間を学士と修士に分けるようになった、ということである。なぜなら、学士だけでは教員になれず、修士を得ても試補教員になるまで。正式な教員にはなれないのだから。 学校制度の議論のややこしさは、同じように見えても結構違っていることが多く(ドイツでは、国内でも厳密に同じということはほとんどないのでは?)なかなか理解できないことだ。そのため認識上のショートカット(近道)をしやすく、「まあ、こんな感じとちゃう?」と思いがちなのだろう。当たり前のことだけど、ちゃんと知るとは難しいことなのだと心したい。 今回はちょっとマニアックな話題、どうぞ寛恕のほどを。
by walk41
| 2014-04-09 12:20
| 学校教育のあれこれ
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