もの(ぶつ)がない
大学院での授業、学部3回生、2回生への授業、さらに教員研修での私の話に共通するのは、学校教育は溢れるほどの物(ぶつ)がある一方で、何を生み出しているのか、どんな達成をなしているのかについて、ほとんど説明ができないほどに、物がないという点で、驚くほど両者が乖離していることである。
まず、多くの組織体では、活動の結果うみだされる商品や価値をもって自負するだろう。それなりに客観的に見える、また多くの場合はある程度の時間は持続する安定的なものであることが前提だ。第二次産業の商品ならば多くは長持ちするし、第一次産業の生産物でもある程度はその形状を留める。第三次産業のサービス業は、少し曖昧さが伴うが、それでも、宅配荷物はちゃんと目的には運ばれた証拠は残るし、温泉旅館で受けるサービスもそれなりに確かめられる。 これに対して。学校教育の場合、これに相当するものは極めて曖昧かつ不安定である。「子どもの成長」は言うに及ばず、「子どもの笑顔」や「盛り上がった授業」も同様だ。これらを掴まえようとする時点で、そのあまりに質的な内容、自己言及的なあるいは再帰的な性格に困惑してしまうし、また掴まえたと思った次の瞬間には変化してしまうからだ(だから、この頃、わたしは「盛り上がった授業を実現するためには、最初は盛り下がっていなければならないね」などと話すほどである)。 ましてや、教育よりも学習が重んじられる昨今、この難問はいっそうその度合いを増している。教育側だけの議論ならば、何をした、これをやったと言えなくもないけれど、児童・生徒がどのように受け止めたのか、彼らが何を学んだのかと学習側のありようを問うのは、他者の「心」にまで立ち入ろうとすることでもあるから、ほとんど不可能な話なのだ。 自分が自分のことについて、どれほどわかっているかすらうまく説明できないのに、どうして他者のそれを観測、測定、評価できるなどと考えるのだろう。その発想の極楽トンボぶりにはまったく驚かされる。そんなん無理やって。 こうした学校教育の特性(その良し悪しはともかくも)を踏まえて、あれこれの議論が組織されることが生産的である。客観的に評価できるなんて無茶を言うたらあかんし、現状を正しく把握して対応することも至難の業だ。どうすればええんやろう。 こんなことを言うのは、私の齢のせいかもしれない、と同時にこうも思う。今だからこそ、「分かったようなことをいわなくていい」と公言できる強みを持っていることを。 教育問題とくに学校教育問題は、これまでも何十年と議論あるいはお喋りされてきた。にもかかわらず、何かの問題が解決されたとか、前進したとはあまり言えないように思う(強いて挙げるとすれば、教員の子どもに対する地位の変化だろう。端的に言えば「優しくなった」。これはいいことだと思う)。 多くの期待が寄せられる学校教育、けれど、その内実は不明なことがあまりに多い。そうした世界で生きていく、関わっていくとは、「わからなさ」に耐える力、むしろそれを楽しめる力ではないかと思う。わからないって、面白いことでもあるんや、って。楽しんで教育の議論ができればと願うけれど、どうしてかみんな深刻になるんやね。眉をつり上げて、腕を振り下ろして…。教員研修での講師の様子を思い浮かべてみよう。 まずは、そんな様相から離脱すること。答えは案外と身近なところにあるんとちゃうかな。
by walk41
| 2014-07-01 22:48
| 学校教育のあれこれ
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