出口管理がないからこその「キャリア教育」論
キャリア教育に関する報告をゼミで聞く。とても熱心な報告だし、思いは伝わる。けれども、残念ながらしっくり来ない。
どうしてそう感じてしまうのか。ドイツの学校教育のことをかじっている身としては、どうしてもこう考えてしまうからだ。 彼の地では、9年間の教育修了(Hauptschulabschluss)、同10年間(Mittlerer Schulabschluss)、同12年(もしくは13年)(Abitur)のいずれも、州政府による資格であり、日本のように学校長が生徒の卒業(進級も同じく)を決めるという制度とは大きく異なっている。このため、学校教育が成功したかどうか、目標により近づいたかどうかは、それぞれの教育修了の通過率によって少なからず示される、という論理になる。 つまり、学校で何を頑張るかと言えば、これら教育修了資格を得ることであって、その先に就職や進学といった次のステップが控えている。日本でも卒業資格はあるけれど、多くの高校生にとって、高卒は苦労して得られるものではなく、一つの通過点に過ぎない。彼らが卒業式に涙するのは、クラスメイトと別れるのが辛いからであって、ここにたどり着くまでの苦労を思い返してのものではない。日本では卒業の意味が軽く、だから次の学校の入試が重要な意味を持つのだ。翻って、ドイツでは、教育修了の資格を得ることが事実上の卒業であり、次のステップに進めることを国(州)が保証するものだ。これが私が言う「入学文化と卒業文化の違い」である。 ドイツからの留学生に尋ねてみた。履歴書に卒業したギムナジウムの名前を書いたりするのだろうかと。彼女の答えは否、Abitur(大学入学資格)を持っていることを記載すれば十分で、どのギムナジウムに通ったかを書くことはないとのこと。ほらね、学校履歴よりもどの教育修了資格を持っているかが大切だから。 つまるところ、日本で「キャリア教育」の議論が「生き方」教育に至るまで拡散し、収集がつかなくなっている事態は、何のために在学しているのかの意味づけをしにくい制度ゆえに、「何のために学ぶのか」「将来を考えているのか」を当該の学校の課題にしなければならないという、ある意味での不幸である。卒業を個々の学校ではなく、国が認め、それに向かって学校と当人が励まなければならない、という構図のもとでは、「何のために勉強するのか」という論理は形づくりにくい。その目的は、学校を超えたところに既に設定されているのだ。 生徒の入口管理には熱心でも、出口管理が緩い日本の学校制度を、逆転させることはできるだろうか。不登校の生徒に「卒業式くらい、来いよ」などという教師の言が好感を持って受け止められるようなところで、「学校ではどうしようもないから、頑張ろう」というようなセリフは、果たして似合うだろうか。
by walk41
| 2015-12-08 18:50
| 学校教育のあれこれ
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