教育労働における「ワーク・ライフ・バランス」
職場における「ワーク・ライフ・バランス」について、話を聞くことがあった。
一回聞いたくらいで評するのは酷かもしれないが、全くつまらない話だった。 なぜなら、①「ワーク・ライフ・バランス」(WLB)の定義は一様ではない、という、現実と定義との関係を本末転倒させた、認識論的に不適切なお喋り、②WLBが叫ばれるようになった背景についての、政府の意図の乱暴な解釈、③無償労働が圧倒的に女性によって担われてきたという、あまりに総論に過ぎ、リアリティに欠けた説明(たとえば、家事労働はともかく、地域ボランティアも女性によって担われてきたという説明は妥当だろうか)。④学部生に説明するかのような、聞く対象におよそ適っていない話、だったから。 さて、この概念を学校を念頭に置いて教育労働について考えてみよう。どれほど、現実を説明する言葉だろうか。まず一つ挙げると次のようだ。 教育労働は、たしかに有償だが、時給や残業といった言葉と縁遠い、(否応無しの、好むと好まないとに関わらずの)ボランティア的な無償労働の側面を強く持っている。対人サービス労働は第三次産業の大きな特徴だが、教職はその中でも児童・生徒というニーズが明らかでない相手と関わり、かつ、教育という範疇に収まらない彼ら彼女ら言動が当たり前に表出される環境下にある。 つまり、教育労働は多分に自分の裁量のもとにあるけれど、それは自分以外の影響が大きいことも意味する。自分だけではどうしようもない部分である。①このくらい教えたらこのくらいまでできるようになるだろうと予想していても、この通りにならない例は山のようにある。そこで授業外の時間を使って教えると、他の業務にシワ寄せがいく。とりわけ、危機管理として「念には念を」と入念な準備、実施、評価を行うので、いっそう時間を要する。自分で何時間働くとあらかじめ宣誓するのは容易ではない。 ②児童・生徒の後ろには保護者、公立義務学校ならばたいてい地域の人々が学校に関わっている。彼ら彼女らの価値観や意志は学校の教育目標や年度計画に沿っているとは限らず、反することも珍しくない。たとえば、教育課程外の部活動は誰がどう担うのか。学校としてはこのくらいで十分だろうと思っても、もっとやってほしいという声が上がると無視するわけには必ずしもいかない。 こんな問いに対して「話し合いをして納得を得て」と言われてもまあ無意味。こうした話のために時間を割いたことが、何ともワーク・ライフのバランスを失うことになったことが残念だった。
by walk41
| 2016-09-29 11:47
| 学校教育のあれこれ
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