「良かれ」と時間を費やす労働
「先生のゆとり、どうつくる」(朝日新聞、20170205)を読んだ。
学校が労働時間の無法地帯という指摘はもっともで、そうさせてしまっている教育委員会や校長の管理責任を問うことも重要だ。けれど、いずれの論者も見落としているのではと思われるのは、「やらされ仕事」は確かにあるけれど、「子どものため」と過剰なくらいに献身してしまいがちな、(日本の)学校教員の心性(メンタリティ)が、長時間の在校に強く作用していることだ。それを求める雰囲気が厳としてあることも、この方向を加速させる。教員採用試験の予想質問に「部活動は何を担当できますか」が当然のように挙げられているのも、その一例である。 学校では日常のように、生徒間の衝突が起こる。たわいのないことですら「逐一報告を」と求める教育委員会とのやりとりも煩瑣だが、生徒それぞれが自分の正義を主張し、ときに保護者も巻き込むと問題がより大きくなる。不登校になったり、学校に来てもいわゆる保健室登校までになる。これらは、基本的に生徒同士の事柄で、学校が何かしなければならない訳ではない。けれど、学校にちゃんと来てほしい、仲良くやってほしいという「お節介」心が頭をもたげると、遅くまで学年メンバーを中心にどうしたらいいかと話をしたり、仕事を終えた保護者とさらに遅くまでやりとりすることになる。 あるいは、進路相談で保護者の意向が二転三転する。「子どもの一生問題」と思っている相手に「じゃあ、そろそろ、この辺りで」と相談を切り上げられるはずもなく、延々と電話が続く。業務への集中度はともかくも、拘束される時間は長くなりがちだ。 そこには、需要(買い手)の発掘と確保、サービスの限定、すなわち透明化(見える化)といったものとは大きく違う論理が支配的である。つまり、学校は生徒とその保護者の重要な関係者として、否応無しに巻き込まれ、「良いことだから」と際限なく時間を投じることを自ら選択する。相手次第の仕事に自分でキリをつけることは困難だからだ。この点で、(日本の)少なくない教員は聖職的とも言える。 だから、葛藤しても割り切る態度、「こうすればもっと良いのではないか」と欲張らないこと。そんな冷たさが学校で長時間滞在を抑制できる。勤務が8:30からならば、8時に掛かってきた電話には出られない、残念だけれど仕方ない、とまずは自身が思えること、そう行動できること、そして、そんな学校の様子を当たり前と受け止める社会的承認が伴うこと、これらが必要だ。 ある高校の教員が呟いた。「生徒や保護者は、学校をいつでも開いているコンビニだと思っているんだろう」と。いつでも開いているコンビニ自体も問題だろうけれど、その便利さに馴染み、いつも照明のついている様子を当然とみなしている節は私たちにないだろうか。ましてや学校はシフト制でもない。災害時でもない限り、官僚制が貫徹する行政機関として、時間通りに始まり終わること、その不便さを生徒、保護者、あるいは地域社会や広く社会は是としてくれるだろうか。
by walk41
| 2017-02-05 09:39
| 学校教育のあれこれ
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