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学校・教職員の現在と近未来 Gegenwart und nähere Zukunft der Schule und ihrer Mitglieder

文字通り暴力的

仙台市の中学校での「いじめ自殺」に関連して、「授業の終わりのあいさつ時に生徒が寝ていたため、50代の男性教師が拳で後頭部をたたいた。1月には授業中に生徒が騒いだとして、50代の女性教諭が長さ15センチほどの粘着テープで口を10~15分程度塞いだという。」(朝日新聞、20170520)と報じられている。

二人の教諭、いずれも50歳代のおそらく大ベテランが、学校教育法違反でもある行為をなぜしたのかについては、また伝えられるかもしれないけれど、このことに、学校教育の暴力的な性格が現れていると思う。

なぜなら、終わりのあいさつ時や授業中の「望ましい」振る舞いが予めつもりされ、それに沿わないと、たたくや口を塞ぐという有形力の行使つまり暴力を振るうことが、疑問視されないからだ。

疑問視する? なぜ? 当然のことでしょう、と思う方に尋ねたい。ある会社の終業のあいさつ時に、そこに見学に来ていた、あるいはたまたま傍にいた人が、そこで寝ていたからと言って、たたかれることがあるだろうか。あるいは、公開授業を見に来ていた人が騒いだ場合、その人の口を塞ぐだろうか。いずれも「困ってます」オーラを出して出てくれることを祈るか、それではことが進まない場合は、そこからご退席を願うかだろう。相手にそこに留まることを求めるための暴力を振るうことはない。

それは、生徒かどうかの違いでしょうと、きっと返事が返ってくるよね。その通り。仙台のケースは、名目上は生徒だったけれど、実質的にそうだった訳ではない。その生徒にとって、終わりのあいさつや授業は、学校側からの押しつけに過ぎず、自分が関わるべき場とは考えられていなかったから、それ以上に意味のある行為として、寝る、騒ぐ(何をしたのだろうか)を選んだということ。こう見れば、生徒の行動はまったく合理的である。

「自分が関わろうという気持ちにならなかったのは、生徒の問題でしょう」と重ねて尋ねる人がいれば、答えよう。気持ちという内的な事柄を含めて、人を操作しようとする発想そのものが暴力的だということ。その是非はここでは問わないけれど、「相手が嫌だと思っても、起こす、静かにさせる」ことが当然のことと扱われることが、まさに暴力的ということだ。大人相手だったら、そんな失礼なことまあしないでしょう。

保護者に対する義務教育であっても、実際には児童・生徒が学校に来なければならない義務教育段階では、児童や生徒になりたいかどうかが本人に確かめられることもなく、いわば突然にあるクラスに放り込まれ、見知らぬ人から授業を受ける。それが、何となくではあれ、自然に近いような感じで進めば幸いなのだけど、いつもそうなる訳ではない。

この点で、望ましい教育とは巧妙に隠された暴力を通じて、社会的に期待されていな知識、技術、態度を養うように方向づけすることである。暴力性が露骨にならないような配慮や仕掛けがいかに用意できるか。それが、学校や教員の「専門性」の内実ではないだろうか。
by walk41 | 2017-05-21 07:31 | 学校教育のあれこれ | Comments(0)
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榊原禎宏のブログ(Yoshihiro Sakakibara Blog) 教育学の一分野、学校とその経営について考えます(um die Schule und ihre Verwaltung und Management)
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