生徒それぞれのカリキュラム
学生たちと、教育課程や「カリキュラム・マネジメント」について話をする。
すると、学生の中には学習塾でアルバイトをしている君がいて、聞くと中学生で同じ教科なのに、4種類ほどの塾作成の教科書のほか、市販の教科書も含め、生徒によって遣い分けているとのことだった。なるほど、「みんな一緒に」「学びの共同体」といった教育神話が強い学校と違って、塾は柔軟だなあと思わされた。個に応じた指導になってるやん。 考えれば、カリキュラムが学校として一つだということは、学習より教育に傾斜した、一斉教授を前提にしている。そこでは、どんな教育をするかという入力(input)にもっぱら注意が向けられており、結果どんな力がつくかという出力(output,outcome)は二の次になるので、生徒の多様性や異質性を等閑視したモデルができあがる。 言わずもがなと言ってよいだろう、教員が一斉にあることを説明しても、その理解の程度、活用の様子は相当に異なる。ある期間の後に、同様の結果に至ったとしても、そこまでの過程は一様ではないし、そもそも同様の結果に至る可能性がどれほど低いかを顧慮すべきである。「みんなが同じところまでわかる、できるようになる」「教え合いなど、助け合うことを通して、同じくらいのスピードで目標に達する」のが、かなり現実離れしていることを認めてはどうだろうか。 ならば、目指すべきは「学校としてのカリキュラム」ではおよそなく、「生徒それぞれのカリキュラム」なことは明らかだ。なぜなら、学校や教員の願いやつもりはさておき、①児童・生徒の個別性(特別支援を要する場合を含めて)を無視することができない、②しかも集合的(学校ではなぜか「集団的」という言い方が好きだ)であることを志向する程に、偶発性・蓋然性が高まる(どうなるかわからない)な傾向が強まる。このため、クラスを単位にいかに計画やつもりをしても、その通りに進むことはあり得ない。③くわえて、意外な出来事が教育的に価値あるものと観念されている(「~君がおもしろい発言をしてね、良かったよ」)。これらが、クラスやさらにはクラスを越えた規模でのカリキュラムのマネジメントと整合するはずはない。 教育課程は各学校で編成する、としても、その具体は集合的であることが難しく(学校行事などは別扱いと言っていいだろう)、目標、内容と方法はできるだけ多様、個々に根ざすことが望ましい。すると、そこでの教員ほかスタッフの働き方も違うように見えてくる。教員は一斉の教授者というよりも、生徒一人ひとりの学習伴走者である。授業時間は学習時間を基本とし、教員は彼ら/彼女らを見守り、診断、評価する能力がより問われる。教授しながら評価することはほとんど無理なので、教授者が診断能力を身につける機会は乏しかっただろうから、これは大きな課題である。 よって、教員は公開授業や研究授業などでスーツを着て現れ、教壇に立つスターではなく、横や後ろに静かに控えるサポーターとなる。一人ひとりにとってのカリキュラムという考え方が、教員像と学校像を変えることになる。
by walk41
| 2017-06-22 15:14
| 学校教育のあれこれ
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