どこまで分業できるか教員の長時間労働を改善するため、文部科学省は教員の事務作業を代行する「スクール・サポート・スタッフ」を全国の公立小中学校に配置する新制度の導入を決めた。…(中略) 文科省によると、サポート・スタッフは都道府県教委がパートタイムの非常勤職員として雇用し、来年度は全国約3万校ある公立小中学校のうち規模の大きい3600校に配置する。文科省はその人件費の3分の1を補助する。担当する業務は児童生徒に配るプリントのコピーなどの授業準備のほか、校内掲示物の作成、行事や会議の準備・片づけ、調査統計のデータ入力などを想定している。(読売新聞、20170825) …… 「スクール・サポート・スタッフ」の配置に、都道府県教育委員会に14億9000万円の補助を予定ということだから、一人あたり41万円ほど。これが三分の一ということは、年間123万円ほどで雇うことになる。時給を仮に1000円とすると、年間労働時間は1230時間、月あたり100時間くらい、週に23時間程度だろうか。 この10年間に教員の勤務時間が増大しているという「教員勤務実態調査」の結果を受けてのアイディアだけれど、二つのことを考えなければならない。 ①上のような報酬で業務に適う人が得られるかどうか。「これを40部印刷しておいてください」と大学の非常勤先などで、予め授業レジュメを渡しておけばやってもらえるような業務ならば、イメージは湧く。けれど、行事や会議の少なくとも準備となると、内容をよく理解しておかなければならない。それなりの学歴や経験も必要だろう。そうした人を、年間100万円代で見つけることができるだろうか。 ちなみに、入学式・卒業式や文化祭などの準備は、一時的であれ多くの頭数が必要になるから、学校あたり一人ふたりの「SSS」(スクール・サポート・スタッフ)がいても、それほど助かるわけではない。それは、教育実習中の学生に手伝ってもらうというイメージを超えないのだ。 ②①とも関わるが、業務が固定的であって、そこに人が付くというよりも、流動的な業務を人が追いかけるという趣きが強い学校の業務(榊原「学校組織構造のメタファー」『京都教育大学紀要』113、2008)は、その性格ゆえに個人の裁量に委ねられる部分が多く、「どうやってほしいかを説明するのに、かえって時間がかかる」と反応されかねない。 「学級便り」の印刷を例にすれば、それがいつ出来上がるかを明言できず、SSSにいつ頼むかを事前に決めることができない。反対に「頼みたい時に、いない」ことが起こるし、複数の教員から頼まれるであろうSSSも、仕事をしにくいだろう。 仕事(業務)は歴史的に個人完結型であり、それが生産規模の拡大に伴って分業化されてきた。そこでは、個人で完結する場合よりも合理的であるために業務の単純化、明瞭化が不可欠である。ところが、学校での業務の多くはこれと反対の方向にある、つまり、個人でやる方が早い、適切だからこそ、個業的な性格を色濃く持っていると解すべきではないだろうか。だとすると、一つの仕事を多くで分担するよりも、仕事の単位を小さくして、それぞれが担うという方が合理的ということになる。 だから、教員数を増やして学級や授業、あるいはいわゆる校務分掌の単位を小さくすれば負担は減るが、業務の単位を変更しないで、サブ的な人を増やすのは、部分的に助かるものの、やりとりに割かれる労力や気遣いなど、負担はかえって増大する面もある。教員間ですら、ティームティーチングは不評なのだから。 以上、教育労働の多くは個人完結的だと捉え、業務の単位を小さくする(教員数を増やす)ことの意義を踏まえつつ、それができない場合は、分業により適した業務をサブ的な人に担ってもらうという、二段構えの発想が必要ではないだろうか。
by walk41
| 2017-08-25 10:12
| 学校教育のあれこれ
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