目標を実現することが即、教育の目標ではないいずこの世界もそうかもしれないが、カタカナ語というのは、新しいもの好きに濫用されやすい。学校教育の世界の今なら、アクティブ・ラーニング、ルーブリック、パフォーマンス、といった辺りだろうか。けれど、これらは慎重に扱われなければいけない。 パフォーマンスについて、次のような説明を複数見たことがある。それは、スポーツのルールを学ぶことと、実際の試合に出ることとの違いを例に挙げ、いわゆる学力は前者だが、パフォーマンスは後者に属するというものだ。 確かにそう言えることはわかる。たとえば、英語を例にすれば、英文法がわかっていることと、実際に英語を話したり聞いたりできることには違いがあり、実際に生きて働く力、あるいは「生きる力」を問うならば、より後者の理解がなされるのはもっともなことだからだ。「机上の空論」だけではそのまま実用的、つまり何らかを現実的に達成する(パフォーマンス)に足るとは言えない。 ところが、こうも言える。学校を中心に学ぶとされてきた、学力(江戸時代までの言い方に戻ろう。「がくりき」-学問に関する力である)は、実際に生きて働く力(実学という言葉は今も残っている)と区別され、いわゆる教養として問われた。だから、今風にパフォーマンスと言おうとも、実際的な力、すなわち実学と学力がはたして直線的につながるかどうかについて、吟味が必要だ。 たとえば数学、因数分解を知ったからといって、その分野の素人として生きる上で、そのパフォーマンスはどれほど重要だろうか。個人的な経験の限りだが、現実世界で数学を使う機会はまずない。ところで、高校数学Ⅰまでが出題範囲だった大学入試共通一次試験(今の大学センター入試と言ってよい)で、私はほぼ満点をとった(自己採点なので、そのはず)。けれど、スポーツの試合のように、学んだ数学を使う機会がないのだ。結局、学校でやっただけ、の代物である。 この点で、生きて働く力は状況に依存的、社会構築的であり、文脈を抜きに取り出すことが難しい。つまり、パフォーマンスは、ゲームに勝つためという文脈の中で初めて問われる。バスケットならば相手側のゴールへ、バレーボールならば相手の陣地内へボールを運ぶことが意味を持つのは、そうしたルールがあるからに他ならない。サッカーに興味がない人にとっては、「どうして玉転がしや玉蹴りにあんなに懸命なのだろう」とゲームを見るのが関の山である。 あるいは、学力が実学につながる訳ではないことは、違う点からも説明できる。それは、学力とは世の中を懐疑的、批判的に見る目を養うことを含んでおり、学力を得た結果、その内容が無意味である、不明であると判断する余地を残している点でも特徴的である。 たとえば、歴史を学んで得られることは、歴史は同じことを繰り返さない、ということかもしれず、詩を学んで得られるのは、なかなか理解するのは難しいということかもしれない。こうした学力は、パフォーマンスには直接にはつながらず、ときに、何かをしないほうが賢明という結果に至る可能性すら持っている。実用的には「それがどんな役に立つのか」を問題にするけれど、学問的には「役に立つ/立たないとはどんな点で区別されるか」とメタ的な能力を求めるからである。 以上の点で、パフォーマンスとその元になるルーブリック(マトリックス、フレーム、といってもいいのではないだろうか)は、行動主義的な発想に基づいており、「何かをしない」という余地は乏しいように思われる。たとえば、コミュニケーションが、もっぱら「話し合い活動」かのように捉えられるご時世にあっては、致し方ないのかもしれないけれど、沈黙もコミュニケーションであり、コミュニケーションとは関係性の所産であり、自分だけでどうにかできる訳ではない、という理解もできるのが学問的というべきである。 コミュニケーションは目力が支え、以心伝心こそ重要といった主張が出てこないのは、可視化に対する何となくの信頼、説明責任という言葉への疑いのなさ、PDCAサイクル万歳、といった「学力問題」ゆえでもある。何かをする/できることばかりに目を向けず、何かを見る/知ることによりより傾注すべきだと、個人的な立場として私は思う。
by walk41
| 2017-10-02 22:05
| 学校教育のあれこれ
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