大学の授業の作法
大学の授業を見せてもらう機会を得た。実践的な内容を扱う授業と聴き、現職教員のいわゆる実践がどのように咀嚼され、限定的ながらも知見がいかに導出されるのか、を楽しみに伺った次第だ。
ところが授業は、そのように進められなかった。まずベテラン教員がこれまで勤務校で臨んできた事例が複数出され、まだ教職に就いていない学生がこれらを要約したのち、それぞれが感想を述べるという、はなはだ失礼ながら、知的な営為がなされたとはとても言えない時間が過ぎたように思う。 具体に入れば、教員の数だけやったことはあるのだから、それらを説明するのにかなりの時間を費やした。こんなやり方があるんだと知ることにも意味はあるけれど、それらは事前に読めるようにしておけば済むことだろう。 せっかく集まっている時間を有効にするには感想ではなく、何が論点なのか、何をどう広げ深めるのかと、より原理的に哲学するための問いかけと発言の交通整理が不可欠だ。にもかかわらず、その条件を満たす授業ではなかったことを残念に思う。なぜ「では、一人づつ感想を言っていって下さい」といった進め方をするのだろう。 教育系の大学や大学院では、今や「理論と実践の往還」が強調される。けれど、より傾注すべきは、①「具体と抽象の往還」あるいは②「主観と客観の往還」と言うべきである。 ①規則的に行為する訳ではない人間という不安定な変数、しかもそれが少なくとも二人での教育ー学習関係、多くは集合や集団といったダイナミクスを伴う場に、再現性、普遍性を前提にする理論という言葉はふさわしくない。そうではなく、具体的な個々の事柄がどのような事態や意味、機能として理解されるのか。つまり、論理化されるのか、また反対に、どのような論理的命題が具体をいかに説明しうるのか、を問うことが重要である。なぜなら、私たちの行為の幅を広げる(大げさに言えば、より自由になる)上で、経験第一主義に陥るのは危険だからであり、また「頭でっかち」な原理主義に偏しても問題だからである。 ②短時間で状況が変化する、そこに当事者の意思決定と行為が重なる教育ー学習の場面では、思い込みや勘違いが頻発する。その歪みを補正するのは容易ではなく、かと言って客観的に認識する方法が明瞭な訳でもない。そこで取りうるのは、自身の認識がいかに主観的でありうるかを振り返り、より客観的な認識を導くための相対化である。そしてこれを促すために「意味ある他者」と各々の見方を交差させる必要がある。 こうした作法を大学で身につけること、もってより戦術的、戦略的な教員へと自身を鍛えることの重要性が、確かめられるべきではないだろうか。
by walk41
| 2017-12-01 18:45
| 大学のこと
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