ドイツの教育や文化・芸術事情を、日本語で紹介するページは少なくないが、そこには誤った紹介も見られる。たとえば、新国立劇場のHP中(https://www.nntt.jac.go.jp/centre/library/theatre_w/06.html)、次のような記述がある。
「ドイツにナショナルシアターはない?」という小見出しの中、こう記されている。「…戦後、ドイツは東西に分断されたが、西ドイツではナチス時代の苦い過去を繰り返さないために、文化や教育は地方自治体(州、市)が運営を担い、国家は介入しないという「州の文化高権」が確立された。国の憲法にあたる基本法で表現の自由の理念を掲げ、その実施は州が責任を負う仕組みだ。言い換えれば、国は文化行政を州にまかせ、口も金も出さない。…」
これは正しい紹介ではない。連邦制を採用するドイツにおいて、多くの権限は州(Land)に属する(連邦基本法、第30条「この基本法に規定または許可のない限り、国家の権限の行使と国家の責務の実現は州の事項である」)。この点では、州こそが国家(Staat)であり、連邦と州の関係は、中央政府に対する地方自治体ではない。
たとえば、バーデン=ヴュルテンベルク州の州立美術館はStaatsgalerie(国立ギャラリー)と称するし、バイエルン州の州立劇場はStaatstheather(国立劇場)の名を冠している。あるいは、教員になるための試験はStaatsexamen(国家試験)と呼ばれるが、これは州ごとに行われ資格が付与される。さらに、州の教員研修センターはStaatliches Seminar(国立セミナー)である。いずれも州すなわち国家を意味する。
州よりも大きな政府(連邦)があるから、そちらが国で州は地方だと、ひょっとしたら素朴に思ったのかもしれないけれど、ドイツの場合はそうではない。丁寧に見なければならないと、自戒も込めて思わされる。