迎合的なお調子者特集「平成と天皇」の中に置かれた、教育評論家の尾木直樹「手の届くモデル 共感呼んだ」(朝日新聞、20171219)を読んだ。
これまでにも、この御仁のご都合主義的な発言には辟易すると述べてきたが、今回も酷い。この人にとって、論理的に物事を考えることは無縁で、その時々の空気を察して適当なことを言えばいいという処世術に長けているのだと思う。
曰く「…両陛下は雲の上の存在ではなく、国民が手の届くような養育モデルを示し、社会に大きな影響を与えた。戦前の家制度ではなく、家族で仲良く話し合ったり触れあったりする新たな家庭像だった。人間らしい、一つの家族としての皇室を作ろうとしたことが国民の共感を呼び、国民との距離が縮まる結果にもなった。」
この一文に、二つの問題を挙げよう。その一、ここには、家族と家庭の区別がない。家族とは二人以上の人間の関わり方を示す制度の一例であり、夫婦、親子、親戚などが当てはまる。また、家制度とはその中でも狭く定義されたもので、戸主の設定と家督相続制度を特徴とし、男系の「直系」を維持することが重視された。「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立」(憲法、第24条)する戦後の法定相続制度のもとでの家族とは大きく異なる。
これに対して、家庭とはそうした人々が暮らす場を含めた言葉であり、制度そのものではない。だから、家制度のもとにあっても、「仲良く話し合ったり触れあったりする(そもそも、触れあうってどういう意味だろう。肉体的接触がなければ家族にならないのだけれど)」ことはできたし、今の家族制度でもそうでない場合がある。戦前の家督相続制度のもとでも、戦後の法定相続制度のもとでも、虐待やDVは起こりうる。法的に結婚していない家族であっても同様だ。このように、家制度と家族(像)は別者なのに、並列するかのような文章を書くのは、あんぽんたんである。
その二、「人間らしい、一つの家族としての皇室を作ろうとしたことが…」は、日本国憲法を読んだことのある人の文章とは思われない。「第1条 天皇は日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であってこの地位は主権の存する日本国民の総意に基づく。第2条 皇位は世襲のものであって国会の議決した皇室典範の定めるところによりこれを継承する。」
これを読めば、天皇という制度のもとに置かれる皇室が、(良くも悪くも)人間らしく暮らせるはずがないことは明らかである。彼ら/彼女らが政治的意思を表明できず、選挙権も被選挙権も持たない(政治的参加の不可)、どこに行くのも住むのも自由なはずもなく、庶民ならば許される多少の羽目外しとも無縁(自由権の行使の不可)。くわえて、職業選択の自由もなく(ラーメン屋として起業することも、フリーターで自分探しもできない)、はたまた、望んでもいないのに「~さま」とあちこちから呼ばれて平等権の保証もなされず、男女平等すらも認められない(皇室典範では皇位継承者は今のところ男系の男のみ)、こんな状況に置かれながら、現代人の考える「人間らしい」はずがないではないか。そもそも、天皇は象徴である。「手の届く」対象であってはならない。市井の人々と同じでは困るのだ。なのに上の一文、読み返して恥ずかしくならないのが不思議としか言いようがない。 こんな貧弱な社会理解をしている御仁の文章が、斜陽傾向にあるとはいえ、新聞というメディアに載るなど、世も末である。いったいどうなっているのだろうか。それとも、こんな記事が変だという私が変なのかしら。
by walk41
| 2017-12-20 21:33
|
Comments(0)
|
カテゴリ
以前の記事
2024年 03月
2024年 02月 2024年 01月 2023年 12月 2023年 11月 2023年 10月 2023年 09月 2023年 08月 2023年 07月 2023年 06月 2023年 05月 2023年 04月 2023年 03月 2023年 02月 2023年 01月 2022年 12月 2022年 11月 2022年 10月 2022年 09月 2022年 08月 2022年 07月 2022年 06月 2022年 05月 2022年 04月 2022年 03月 2022年 02月 2022年 01月 2021年 12月 2021年 11月 2021年 10月 2021年 09月 2021年 08月 2021年 07月 2021年 06月 2021年 05月 2021年 04月 2021年 03月 2021年 02月 2021年 01月 2020年 12月 2020年 11月 2020年 10月 2020年 09月 2020年 08月 2020年 07月 2020年 06月 2020年 05月 2020年 04月 2020年 03月 2020年 02月 2020年 01月 2019年 12月 2019年 11月 2019年 10月 2019年 09月 2019年 08月 2019年 07月 2019年 06月 2019年 05月 2019年 04月 2019年 03月 2019年 02月 2019年 01月 2018年 12月 2018年 11月 2018年 10月 2018年 09月 2018年 08月 2018年 07月 2018年 06月 2018年 05月 2018年 04月 2018年 03月 2018年 02月 2018年 01月 2017年 12月 2017年 11月 2017年 10月 2017年 09月 2017年 08月 2017年 07月 2017年 06月 2017年 05月 2017年 04月 2017年 03月 2017年 02月 2017年 01月 2016年 12月 2016年 11月 2016年 10月 2016年 09月 2016年 08月 2016年 07月 2016年 06月 2016年 05月 2016年 04月 2016年 03月 2016年 02月 2016年 01月 2015年 12月 2015年 11月 2015年 10月 2015年 09月 2015年 08月 2015年 07月 2015年 06月 2015年 05月 2015年 04月 2015年 03月 2015年 02月 2015年 01月 2014年 12月 2014年 11月 2014年 10月 2014年 09月 2014年 08月 2014年 07月 2014年 06月 2014年 05月 2014年 04月 2014年 03月 2014年 02月 2014年 01月 2013年 12月 2013年 11月 2013年 10月 2013年 09月 2013年 08月 2013年 07月 2013年 06月 2013年 05月 2013年 04月 2013年 03月 2013年 02月 2013年 01月 2012年 12月 2012年 11月 2012年 10月 2012年 09月 2012年 08月 2012年 07月 2012年 06月 2012年 05月 2012年 04月 2012年 03月 2012年 02月 2012年 01月 2011年 12月 フォロー中のブログ
最新のコメント
メモ帳
ライフログ
検索
タグ
その他のジャンル
ブログパーツ
最新の記事
外部リンク
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
|
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ファン申請 |
||