論理を鍛えるー形式陶冶
見せてもらった授業は算数だったが、私には形式陶冶的、つまり単元を学ぶではなく、単元で(を通じて)学ぶという点では、論理の授業だったように思われた。
課題は「4人がこれまでに走った記録をもとにして、マラソン大会での監督として誰をあと一人出場させるか」を問うものだった。それぞれの平均タイムを出せば、代数としてはすぐに答えが出るけれど、そこに人が選ぶ際の基準が含まれるために、いろいろな選び方がありうることを、生徒は実感できたと思う。 最初に、誰がいいのかを各自で選ばせる。きっと平均値に着目しするだろうから、1つに答えがまとまるかと思いきや、はじめから4つにばらけたことが興味深かった。同調圧力、付和雷同を求める雰囲気がきっと少ないクラスなのだろう。 そして、さらに面白かったのは、4人のいずれを選ぶかの立論が、必ずしも数学的な範疇に留まらず、実社会的な人間の推論をも含むものであったこと、また、そうした立論を授業者がありうることと受け止めていたことだった。 生徒たちから出た理由づけは、平均値のより低い人を選ぶ(平均してもっとも速い)から始まったが、その後すぐに、最大値と最小値を除いた平均値をもとに主張した生徒が現れた(これは国際競技などでの採点方法に似ている)。 あるいは、最大値のみを除いた平均値を主張した生徒もいた。それは、大きな外れ値は体調不良などのアクシデントによるものだろうという推測にもとづく。なるほど一理あるな。と同時に、こうしたアクシデントが起こりうる人ならば、不安材料だから起用すべきではないという意見も出た。 はたまた、この立論も面白かった。すなわち、最大値と最小値の差がもっとも小さな人が、安定的に記録を出せる点で信頼できるというものだ。この発想には驚かされた。ただし、これにも別の生徒から、安定的であっても遅ければ仕方がないと反論も出た。これももっともな主張である。 他にもこうした立論が述べられた。3人は10回の記録が上がっていたが、1人は欠席して8回のみ。ここに注目すれば、欠席するのは体調不良だろうから、この人を選手に選ぶのは危険だという消去法的な発想である。以上の説明は不確かな部分を含まざるを得ないので、生徒からは「まあまあ」とか「たぶん」とも発言されたが、授業者はそのまま受け止めていたあたりも、狭義の算数ではないなと感じた次第だ。 授業を見ながら、自分ならどんな別の推論ができるだろうかと考えてみた。たとえば、8回のみの記録がある人はまだ体力を温存しているだろうから選ぶべきではないか。あるいは、回数を重ねるほどにタイムが短くなっている人に、今後の伸びしろを期待できるのではないか、と。 こうして授業が終わったが、終わりの際に、自分の立論をうまく語彙的に説明できず、クラスメイトに補ってもらっていた女の子が、小さく拍手をした様子が、とても印象的だった。一つの答えに終着しないテーマの面白さ、その検討の過程を交通整理する授業者の力量(観察、判断、行為)のいかんがが問われる、と思わされたことだった。
by walk41
| 2018-02-09 10:59
| 授業のこと
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