「日の丸・君が代」を学校に持ち込もうとする愚
卒業式が近づくと、例の「問題」が浮上する。
学校で日の丸を掲揚し、君が代を斉唱するように、教育委員会が校長に、そして校長が教職員を指導することを巡ってである。裁判も多発しているように、「思想・信条の自由」が尊重されるべきなのか、「職務命令」に従うべきなのかが大きな争点となっている。 2012.1.16の最高裁判決が、両者の「痛み分け」とも解釈できるように、いずれの主張も全面的に受け入れられる訳ではないのだろう。つまり、この構図では議論がもはや進まないということだ。そこで、少し違う点からコメントをしてみたい。 学校は教育機関、児童・生徒をある方向へと価値づける場である。ならば、学校がどのような場であることが、その目的に適うのかを考えればいい。教職員がいやいや従わされている様子を目の当たりにする子どもたちは、何を感じるのか。「この国の為政者は、嫌な人にも強いるのだな」と学ぶことだろう。「自分たちも、『民意』の名の下に、やがて同じようにさせられるのだなあ」と。 広く人を教育しようとする側には、まったく口惜しいことだが、人を変えるためには、その人が変わろうとしなければ元の木阿弥となりがちだ。太平洋戦争下、あれほど「鬼畜米英」と教化されても、戦後すぐに「アメリカ万歳」になったではないか。あるいは、ときおり防塵用のフェンスに、「ここを覗かないでください」といたずら心で小さな窓が取り付けられるが、多くの人が何があるのかなと窓を開けたがる。教育すれば学ぶへとつながる訳ではないところが、やっかいだ。 かくして、教育することと学習することは時に正反対でもあることを、人を教育したい側は心しなければならない。人間の神経細胞はけっこうな天の邪鬼で、与えられた刺激に対していろいろな反応をする。つまり、柔軟でいい加減なので、「直球」だけでは教育はおよそ成功しないのだ。 さて、「日の丸・君が代」問題。学校が混乱し、嫌な人が強いられる様子を子どもたちに見せることが、君が代大好き人間にするのか否か。嫌がる人に「口パク」でも歌わせることはできるかもしれないが、不快、苦渋に満ちた表情までを変えることはできない。何よりも、儀式そのものが「暗く」なってしまう(もともと、「暗い」のに…)。私からすれば、「日の丸・君が代」を強制したがる人たちは、「反日」の先兵ではないかと勘ぐってしまう。 これと反対も同様。かつて、一部の教職員組合主導で行われていたという、「日の丸は戦争の象徴、血の色」という教え方は、はたして日の丸大嫌い人間を作ったのか。戦時に日の丸が多用されたことは事実だが、それだけを強調していればよいのか。それぞれに振りかえるべきだろう。 ちょっと敷衍。明治時代に海軍省から依頼されて「君が代」を作曲したのは、ドイツ人音楽家、Franz Eckert(NHKラジオテキスト「まいにちドイツ語」2011年5月号、から知りました)。歌詞は、冒頭の「君が代」がもともとは「わが君は」であることを除けば、古今和歌集にある和歌から引いたものという。いずれにしても、天皇を賛美する意味であることに変わりはなく、民主主義を標榜するならば、現代にフィットしないことは明白だ。「君」は天皇ではなく「愛する人」だという解釈もあるけれど、そんな個人的な意味なんやったら、国民統合をねらう国歌にぜんぜん合うてへんやん、と突っ込みたくなる。 新しく国歌を作るか(一時、「さくら」はどうかなどと議論がありましたね)、あるいは、スペインのように国歌はあるけれど歌詞がない、という感じにしてしまうか、いずれにしても、このままでは同じ構図がくり返されるだけだろう。
by walk41
| 2012-01-19 10:17
| 学校教育のあれこれ
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