達成目標を設定できないから
きょうの研究室ゼミ、卒論の構想が発表された。当該学生の問題関心はわかる、テーマに関するこの君なりの不満や怒り、悩みもわかるつもりだ。だけど、できるだけ「問題点」と題目にあらかじめ設定するのは、止めた方がいいと思う。
問題点という問いは、「かくあるべき」という前提が存在し、それに向かう社会的な承認と技術的な可能性が伴う場合に立てることができる。たとえば、「日本全国どこでも翌日配達」を目標にした、宅配便の祖、クロネコヤマトが全国でこのネットワークを、その完成まで取り組めたのは、この目標が社会的に意味あることであり、また、技術的に追求可能と判断されたゆえだろう。 これに対して学校教育の問いは、どうなれば目標達成かということが、そもそもない。「明るい子」「素直な子」はあまりに曖昧としても、「コミュニケーション力」「創造力」さらには「人間力」(すでに人間のわれわれに対して、あまりにも鈍感なネーミング。この言葉をつかおうと言った御仁の感性と学力を疑う)も同じようによくわからない。「よくわからない」ことを目標にするのは難しいので、高校あたりでは、大学進学、資格取得あるいは就職の数や内容を挙げがちだが、それですら、「それで良いといえるのか」と規範や価値への疑義は収まることがなく、いずれも「う~ん、そうやね」で終わりがちである。 つまり、学校教育に関する達成目標があるようでないような状況から、その研究においても、特定の価値やその実現形態を目指すことが難しく、常に「それは問題といえるの?」とか「違う点からみれば、良いことではないか」という意見を受けなければならなくなる。「これが問題点だ」と叫びたい学生にとっては、あまりに隔靴掻痒な状況である。 でも、それだからこそ、楽しく臨んでほしい。「こうあることが達成目標だ」と声高に言うことができない良さを確かめながら。私見ながら、学校教育の議論は、相対論、あるいは関係論として為されざるを得ない。なぜなら、ある現実を、まずつかまえる時点で不正確、つぎに、追求する目標も先々は心細い曖昧なもの、さらに、改変されたとしてもその効果や意味を定めることは容易ではないからだ。 だから学生のみんな、学校教育の領域で問いを立てる上で大切なのは、「こうすれば、こうなる」という方向を目指すことではなく、「こうすればこうなるという考え方は、何に依拠しているのだろうか、そうした見方だけで良いのだろうか」というメタ的な態度と能力である。これは、教員になってからも必須の力であり、ともすれば「こうしなければ」という自分から自らを解き放ってくれる。 そうした基礎トレーニングとして教職の学修、そして卒業論文に向かってほしい。まずは今日の発表、お疲れさま。
by walk41
| 2012-05-22 23:11
| 研究のこと
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