研究と実践
「復興めざし、福島大の挑戦」(毎日、20120624)を読んだ。
大きく掲げられているのは、「研究ではなく、支援」。「大学が何ができるかを考えるために地域と関わることが大事」と教員の一人が語る。 とてもすっきりとした整理だと感じる。つまり、研究は第三者的、そこから離れてこそ行うことができるのが多いのに対して、支援はまさにその場にいてこそできるから。両者の距離は大きい。 学校教育について考えてみよう。いわゆる実践(正確には、学校教育実践)は、「出たとこ勝負」の即興的、瞬発的、あるいは創発的であり、その場を捉えることはとても難しい。何しろ、授業や教室で起こっていることの観察、記録、記述が、当事者によってほとんどできないのだから。 これに対して研究は、授業や教室から離れて、あるいはその近くにいても、なるべく「電信柱に近く」あることが求められる。そうでなければ、いま起こっていることを観察、記録できないからだ。つまり、当時者性を帯びないことが研究者にまず求められ、だからこそ、冷静に、視野広く「事実」をつかまえられる。実践者は、それを参考にして、次の場に臨むことができる。 くわえて、教室で起こっている「事実」は、第三者的な立場からでさえ、つかまえることが難しい。学校教育の現実は、教職員や児童生徒あるいは保護者の主観によって多く構成され、また、学校関係者が相互に干渉する、すなわち影響し合うために、「何が起こっているのか」「どうしてこうなっているのか」を記述、解釈することが難しく、実践者にうまく説明できない。そこで残される研究者の役割は、「そのように見えているかも知れないけれど、そうでもないのでは」「そのように思う必要はないのでは」と、やんわりとではあっても、懐疑的、批判的なメッセージを実践者に送ること、ではないかと考える。 私がわからないことはまだまだ多いけれど、研究と実践とを分けて考える方が学校の現実を説明しやすいこと、この点で、「実践研究」なる言葉は遣うべきでないこと、までは言えるかな。 学校でよく言われる「授業研究」や「研究授業」は、その場にならないとどんなシロモノになるかわからない授業について、事前、最中、事後に「ああも見える」「こうも見える」とお喋りをしている(だけの)状態であり、新しい発見はなかなかないし、また見つけられたものにほとんど客観性はなく、したがって蓄積もされない。「来年は来年の風が吹く」から、作られた報告書はお蔵入りだ。 学校から「研究」という言葉をなくしたら、誰がどんなふうに困るのか、考えてみてはどうだろうか。
by walk41
| 2012-06-27 09:29
| 研究のこと
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