永遠の未完成
大学院の授業は人数が限られるので、一人ひとりの顔とじっくり向かいながら、授業者としても大胆な仮説を含めて話題を提起できるので、いっそう楽しい。今日もそんな時間を過ごす中、整理されてきたかなと思われることが一つあった。
多くの組織が、業務の結果として生まれる製品やサービスの完成を目指し、あるいは想定される完成から逆算して、どのような入力条件が求められるかについて議論するのに対して、学校教育の世界では、「人格の完成を目指して…」(教育基本法 第一条)と謳われるように、どうなれば完成やそれに近づいているのかが、とりわけ普通教育においては曖昧糢糊としており、入力の際の条件が事実上、設定できないという点で特徴的だということ。 3つのMとも称される、ひと、もの、かねという経営条件のいずれも、学校教育は「こうあることが、結果を左右する」とは断定できない。教職員には女性が良いのか男性が良いのか、授業時数はどれだけ多い方がよいのか、いかほどの費用を投入することが最大の効果を揚げるのか、どれもケースバイケースである。そこには、正解も、最適解もない。おおよそどういう傾向を示すのかすら、不確かである。そこで引き合いに出される教員の経験則、すなわち経験の束は必ずしも客観的に整理されているわけではなく、認識的不協和を解消しようと合理化されがちなので、経験そのものとは異なる。経験年数が長い教員が優秀というわけではなく、「指導力不足教員」など、むしろ課題を抱えやすいのは、経験という名前の記憶が少なからず歪められているためだろう。この結局として残されるのは、当事者にとっての得心や納得という満足の度合いである。 「教員として不適切な条件を挙げよ」と問われて、答えられるのは極めて消極的・否定的な内容だとすれば、ありうる教員は相当の幅を持つことになる。かなりの層の人々が教員になりうるからこそ、教員免許状の資格を大学卒や教職課程を経たことといったようにまで括ることはできても、それ以上の縛りは難しい。条件を狭めたことによる効用を実証できないから。この点で、教員養成の「高度化」なる議論はほとんど言葉遊び、あるいは暇つぶしである。 くり返そう。結果から逆算して入力を決めるという発想に基づくならば、結果が極めて不明確でかつ不安定な学校教育の世界で、入力を枠づけることはまったく無理である。なぜなら、教職員がどのようであろうとも、児童・生徒にはそれを自分なりに解釈や翻訳する可塑性、すなわち学習性があるから。子どもが教えられたとおりに必ずしも学ばないのは、次の世代に期待する先の世代にとって福音なのだ。 だから、入力がいかにあるべきかの議論をあまり厳密には行わないこと、おおよそ、だいたい、アバウトには、くらいで「ハンドルの遊び」を意図的に設けることが、「急がば回れ」になる公算大である。私たちは、格言や諺によく残されている、両義的な論理をよく学ぶ必要があると思う。
by walk41
| 2012-10-24 00:25
| 学校教育のあれこれ
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