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学校・教職員の現在と近未来 Gegenwart und nähere Zukunft der Schule und ihrer Mitglieder

「習う」と「学ぶ」

江戸時代の「手習塾(寺子屋)」、あるいは今でも算盤や書道など「習い事」と言うように、「習う」という言葉がある。

これは、お手本を真似て、より手本に近くなれるよう練習することだろう。手習(てならい」とは別名、稽古(けいこ)とも言ったそうだが、稽古は手本に倣うことであり、倣っている者に「気づく」「振り返る」などが入る余地はない。

学校にも「書写」という「習字」の時間がある。字を習うとは、正しいとされる書き順や形をまねて、よりお手本に近づくことだろう。これははたして「学び」なのだろうか。手本のように書けるように練習することなく、「話し合い」や「聴きあい」を通じて、「学ぶ」などということがありうるのだろうか。

ひょっとしたら、「学び」を唱える論者は、「学習」から「学び」へと言葉を換えていく中で、「習」の字を知ってか知らずか落としてしまい、練習すること、訓練を経ることを忘れたままに、「学ぶって素晴らしい」と信心めいているのではないだろうか。

上記の疑問が妥当ならば、「習う」とは積極的、主体的に被教育される立場を取ること、と導ける。この「習う」とは、手本、模範すべきことが明らかで、それに近づくことが「良い」と見なされる状況下ですぐれて重要な概念になる。習わなければ言葉は獲得できず、それは言語的な意味だけでなく、身体的にもそうである。どのように挨拶すれば良いかは、習うしかない。大人のようにある動作をくり返すことで、日本ならばお辞儀することを獲得し、そのずっとあとになって、「挨拶って、お辞儀だけじゃないんだ」と気づくことをきっかけに「学ぶ」のだ。

習うことなく学ぶことはありえない。そんなことを夢想するのは、訓練を嫌がる者が「一人学び」「発言から学びあう」と言葉を濫造しているに過ぎない。人がどのようにものごとを知り、自分なりに捉えられるようになり、再解釈していくのかについて、具体例に則して考えてみよう。言葉が先にあって現実を左右する訳ではない。現実が言葉に命を与えるのである。
by walk41 | 2012-11-24 21:54 | ことばのこと | Comments(6)
Commented by もくれん at 2012-11-25 10:25 x
最近、よく耳にします「学び合い」。以前生活科が新しく導入されたころ、「子どもたちがしたいようにさせることで、自主性が育つ」と指導してはいけない。したくない子は無理にさせることはない、とばらばらで自分勝手な行動こそが良い事。といった指導が主流で「みんなちがって、みんないい」と教えることは悪い事のような風潮がありました。研究という名のもと、みんな同じ方向で、それしか駄目だという取組が行われます。たくさんのねらいのもと画一的な指導法だけではなく、数あるうちの指導方法の一つととらえればよいのではないかと考えるのですが・・・
Commented by walk41 at 2012-11-25 10:49
コメントをありがとうございます。「こうすれば良い教育方法」というものがないならば(相手や状況によって様々で、二度と同じ授業や指導はできないのだから)、「こうもできる」「あんなこともやってみた」と画一的でない試みと議論がなされるのが前向きなこと、大賛成です。

にもかかわらず、時流に乗ったお喋りがなされ、消費されてはやがて消えてしまうことの繰り返し、なかなか人は学習できないということの証かもしれませんね(「歴史から人について知れることは、人は歴史から学ばないということだ」という言い方もあります(^^;))。

すっかり寒くなってきました。くれぐれもご自愛のほどを。
Commented by もくれん at 2012-11-25 11:13 x
お返事ありがとうございます。
もくれんの葉っぱがはらはらと次から次へと前の道路に落ち、落ち葉掃きにつきっきりです。。。
良いお天気になりましたね。京都の東福寺の紅葉は十年ぶりの美しさとか、行ってみたいです。
>人は歴史から学ばない。
そうですね。ある意味クリエイティブな事が好きなのかもしれません(^^;)
Commented by walk41 at 2012-11-25 13:27
学ばないことをクリエイティブとのご指摘、なるほどと思わされました。私など、教えられた通りにならないこと、可塑性に富むことこそを、学ぶと表することもあるので(自分自身が矛盾していますね(^^;))、経験を踏まえることを学びとも言い、同時に、経験に(必ずしも)囚われないことも学びという辺り、悩ましくも面白く思います。

本学の最寄り駅(駅改札から正門まで2分)から、東福寺駅までは2つ、5分くらいです。ぜひお出かけ下さい。
Commented by もくれん at 2012-11-25 14:27 x
私のつぶやきを丁寧に学術的にお返事いただき恐縮しています。勉強になります。

先生の大学の近くなんですね、東福寺!きれいでしょうけど、人も多いでしょうね。
Commented by walk41 at 2012-11-25 14:39
こちらこそ、よい勉強の機会になります。いつもありがとうございます。

大学の近くには東福寺のほか、伏見稲荷(となりの駅です)、伏見桃山(昔ながらの酒蔵が林立しています)、少し足を伸ばせば平等院と、見るところがたくさんですよ。ただし、おっしゃるように、くだんの東福寺は、今のシーズン、紅葉を見るというよりも人を見るというべきでしょうか。駅のプラットホームから(冗談ではなく!)人がこぼれ落ちそうなほどの込みようなのです。11月半ばのできるだけ平日(でもすごいですが)がお勧めです(^^;)
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