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学校・教職員の現在と近未来 Gegenwart und nähere Zukunft der Schule und ihrer Mitglieder

校長を評する

引き続き、ドイツの校長先生の話題。

ドイツの中西部、ノルトライン-ヴェストファーレン州のケルンにある、JOHANNES - GUTENBERG 実科学校[5-10学年の6年制中等学校](http://www.rsgodorf.de/)は、1969年に創設された。

歴代の校長は、1969-1980が Herr Herbert Hunze, 1980-1997が Herr Siegfried Born, 1997-2008が Frau Wilma Wojtczak, であり、2008.10からは2000年からこの学校に勤務するHerr Michael Roske (数学、情報、化学)が校長に就いている。

英語と生物学の教員でもあったFrau Wilma Wojtczakが校長を退任し、州地方局の学校管理官(Schuldirektorin)に異動となったあとの2008年11月、学校でお別れ会が開かれ、ピアノ、コーラス、合奏、会食が行われた。以下、副校長であったMichael Roskeによる挨拶の一部を紹介したい。
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Wilma Wojtczak校長のお別れ会にお越しくださった学校後援会のみなさん、同僚そして元同僚のみなさん、ご臨席くださったケルン実科学校の校長ほか近隣学校の校長、地区市長、地区局、学校管理局、地区管理官、そして本校と校長を近しく感じてくださっているみなさん、そして学校みんなが準備したお別れ会にいらっしゃったWojtczak氏に、心よりご挨拶を申し上げます。

若い教員だったとき、私はこんな経験をしました。当時、勤めていた学校の主任(Dezernent)がその時の校長を褒めて次のように言ったのです。「彼女はいい仕事(Job)をする!」と。当時の経験豊かな校長-Wojtczak校長ではありません-にはとても刺激を受けました。私は当初、彼女の刺激をさっぱり理解できませんでした。良い仕事-この決まり文句はよく知られていますが、長くこの職に就く中で、とりわけ貴方Wilmaと一緒に仕事をする中で、なぜ以前の校長がこの言葉にふさわしくないかがわかるようになったのです。

仕事という言葉で、人は比較的短い期間の活動分野、狭い範囲の明確な課題あるいは具体的な課題を素早く遂行することを考えます。学校を経営するとは、この意味において仕事(Job)と言えるものであり、短距離で繰り返し回るマラソンのようなものにあてはまるでしょう。学校経営とは組織だけのことではありません。良い学校経営とは、イノベーション(革新)、たくさんのアイディア、確信、実行能力、交渉、貢献意欲によって示されるのです。

しばしば学校は企業と比較されます。学校の大きさと比べられるほどの、たいていの企業では、材料が機械で形づくられますが、学校では人間が人間を通じて形づくられるのです。教育は決してJob ではなく、天職(Berufung)です。

学校を経営するとは、まさに頭脳と心(マインドとハート)を必要とします。Wilma貴方はたくさんのマインドと大きなハートで取り組みました。関わり方と力強い意欲を結びつけた貴方は、私たちのもっとも愛すべき、評価されるべき校長であり、同僚でした。

なかでもすばらしい経営だったのは、学校の増築に関わることです。Wojtczak校長は決して放っておかず、常に関わりを続けました。それによって、私たちの学校の校舎がこんなにも楽しげで明るい外観となったのです。また、学校プログラムにも、校長は配慮豊かに取り組みました。こうして学校は、共同的な学習形態と個人的な促進が単なる決まり文句ではなく、現代的な学習の場へと発展したのです。

Wojtczak校長は、教員、保護者、生徒たちと一緒にすばらしい働きを見せました。彼女は常に人々を動機づけ、活発な学校生活へと誘いました・また彼女は、同僚の個人的な問題にも耳を傾け、助言を与えてくれ、また自分の出来るサポートをしてくれたのです。

彼女はまた葛藤を排除しようともしませんでした。いつも彼女は、生徒や同僚がよりよくなる可能性を示そうとしており、常に同じ調子で現れ、問題が深刻になることを抑え、争う者がすぐに仲直りするように心を砕きました。

彼女は学校にいるすべての人に対して自立的であることを期待していました。彼女はよくEVA[自身の責任ある活動]の原則を話したものです。

ローマ時代の哲学者、セネカがすでに述べているように、「自分の先を行く人と一緒することを望むように、自分より遅い人たちと一緒に行きなさい」、これは学校における貴方のモットーです。だからこそ、貴方は学校のすべての保護者、生徒、同僚から好かれたのです。この会で演奏した音楽は、私たちがどれほど貴方がいないことを残念に思っているかを示すものです。

すでに50日間、あなたは地方局の仕事に就いており、多くの話から貴方がすでにとてもうまくこなせていることを知っています。貴方はすばらしい業績を残した先任のRolli の仕事を引き継ぎましたが、平等に関する問題、終日学校の授業や外的な査察などにおいてすでに有能な対応ができています。他の学校の同僚との話し合いからも私は知っています、貴方と一緒に仕事をすることがいかに望まれるかを。私が貴方と初めて業務について話し合ったとき、丁寧さではなく、確信を与えてくれたことに私は大きな拍手を送らせてもらいたいと思いました。私たちは貴方の新たな任務をお祝いし、こんなにも優秀な同僚を得た地方局の学校部門にお祝いを述べます。

貴方の学校経営に心から感謝しています。いつでも学校にいらして、あるいは電話やメールをください。私たちが学校の課題(Aufgabe)を仕事(Job)ではなく、貴方の精神で続けていくことを約束します。
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いかがだろうか。退任の際、学校関係者にかくもお祝いをしてもらえる校長は、日本の公立学校でどれだけいるだろうか。また、こんなにも副校長に語ってもらえる校長であることは、いかに可能だろうか。かたや「校長としての信念」や「リーダーシップ」が必要と喧伝されているのに。そうしたものが育ち、発揮され、認められる機会はどれほどあるのだろうか。

たとえば10年間はこの学校から動かない、とすること。そのためには、
①「春から校長になることは決まっているけれど、どの学校かわかるのは新年度の始まる数日前なんだ」といった、およそ笑えない話をなくし、各学校を単位に採用、異動を行うこと、
②60歳定年ならば、おそくとも50歳までには校長になること、
を原則にしなければならない。

このアイディアが採用されないのはなぜだろう。校長会が反対? あるいは教育委員会としては嫌? どんな不都合があるのだろうか。そしてそれは誰のためなのだろう。ぜひ議論したいと思う。
by walk41 | 2013-02-20 13:23 | ドイツのこと | Comments(2)
Commented by まさ at 2013-02-20 18:27 x
乏しい英語力で天職を訳すと、vocationもしくはcallingとなります。とくに後者に引きつければ「呼ばれる」となるかなと思います。しかし、現在の校長職(教員も含め)は、学校から呼ばれているという感じではないと思います。言い換えれば、教えることが私の天職だと思い教師を続けていると語られるものの、その学校に呼ばれたわけではない、つまり天職になりきっていない(そう思えない)状況になっているのではないかと推察するのです。故に2月末退職を選ぶ先生報道などに象徴される現象も起こるのではと最近考えています。
Commented by walk41 at 2013-02-20 21:18
なるほど、calling 呼ばれるは、ドイツ語でも同じで、Beruf 職業の意味は、Ruf 呼ぶ ですから。必ずしも呼ばれていない学校に赴任するというのは、面白い説明ですね(「お呼びじゃないよ」)。

キリスト教の背景を持つ地域とはまた違うのかもしれませんが、「神」に呼ばれる、使命を与えられる、ミッションを得る、こうした流れで、構成員の意欲やひいてはリーダーシップなるものを語れないかと、私は考えています。
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