いじめ再考
コメントをくださる式部さんとのやりとりもあり、改めて「いじめ」について考えてみたい。
ヤマアラシ理論という言い方もあるが、人間は一方で他者とのつながりを求め、他方でつながりを絶とうとする、両義的な存在である。一人は寂しいけれど、人付き合いは疲れるといったように。 このため、自分が何かに帰属していることを心地よく思うと同時に、その縛りが強くなりすぎると脱出したくもなる。「寄らば大樹の陰」の一方で、「鶏口となるも牛後となるなかれ」という言い方は矛盾しているが、処世訓としてはいずれもそれなりに正しいのだろう。 貧困、病気、争いといった不安材料が少ないとき、あるいは「正義」が機能しているときは、個人主義が優位し、集団主義は後退するが、こうした不安が増大したり、「不正義」が台頭していると認識されると、人々は徒党を組んで集合的に問題に対応しようとする。ドイツでのユダヤ人排斥と虐殺、日本でも治安維持法体制下の「非国民」へ熾烈な攻撃は、まったく残酷な「正義」だった。 映画の世界でも、たとえば「ウエストサイド物語」(1961年)は、屋上運動場という場の利益をめぐる衝突を描いており、包摂と排除が同時に観察されるテーマだろう。いま、アメリカのテレビドラマ、「デスパレートな妻たち」(シーズン7)を観ているが、殺人の疑いをかけられたポールが元の住処にもどったところ、ご近所から露骨に避けられている。これは「殺人犯」に対する社会的制裁だが、これはご近所なりの「正義」の行使なのだ。ポールからすれば「いじめ」なのだけれど。 学校での子ども達にも、男女、クラブ、趣味などでグループ化され、ある利害(物的・精神的資源)関係が明らかになる中で、同調、統合、衝突、排斥といった場面も起こりうる。あるいは、約束を守らなかった、遅刻をしてみんなに迷惑をかけた、みんなの秘密を大人にばらした、といった彼らの「正義」が危ぶまれる場合も、社会的制裁が行使される。 ここで「いじめ」が問題になるのは、当事者の力関係が明瞭で、「勝負あった」状態であるにもかかわらず、「人権」に反する肉体的・精神的な暴力が繰り返される場合だろう。そのボーダーラインは引かれるべきだが、一過性の、ましてや制裁色の強い場合は、やむを得ないし、踏み込んで言えば望ましいことですらある。すぐれて社会的な能力を持ち得ており、「俺は知らないよ」と個人主義的ではないのだから。 これらと同時に、「正義」を振りかざすこと、そのものが問題ではないか、という議論も重要だ。けれども、昨今の「いじめ撲滅」論にそうした視点があるとは思われない。「みんなでいじめをなくそう」なのだから。「みんなでケータイ電話を持つのを止めよう」って運動、怖いことでしょう。 学生にもたずねることがある。「中学校1年生の仲良し女の子が3人、クラスのある男の子をいずれも好きになった。だから、誰も告白しないって約束をしていたのに、ひとりだけ出し抜いて言ってしまい、さらにはつきあいすら始めた。残りの二人はこの女の子を無視し始めたけれど、これはいじめだから許せない? それともそういう約束をしたことが間違いだと思う?」と。 さらに考えてみたい。
by walk41
| 2013-05-08 18:42
| 身体
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Comments(2)
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式部
at 2013-05-10 09:42
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いじめについてお考えいただきありがとうございます。女子学生の問いですがこれは3人により同盟関係(友人としての結束)を結んだものであり、それに反したということは同盟関係が崩れても構わないという判断のもとで行われたので付き合いを始めた子からすればその程度の付き合いでしかないのだから約束をするほどの関係にもなかったものと思われます。仲が良ければ日がたてば友人関係も戻るものなので放っておくことが1番良いのだろうと思います。
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by
walk41 at 2013-05-11 09:44
私もそう思います。ですから、「いじめの早期発見」や「撲滅」という表現がそぐわないと感じるのです。そうしたトラブルを解決する能力も「生きる力」でしょう。子どもたちが学ぶ機会を奪ってはなりません。
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