手本を見せられるか
習い事に関わって、一言くわえたい。多くの学校教育の弱点は、教員が自分を手本として示すことができない点にある。
ノーベル文学賞を受けたイギリスのバーナード・ショーが言ったとされるが、「できる人は自分でやる。できない人は教えたがる」とは、学校教育にも当てはまるかもしれない。 この間、学校事務職員の皆さんから教えてもらった、「教員にいらだちを感じるとき」のあれこれを引けば、(子どもに忘れ物をするなと叱るくせに)自分は期日までに書類を提出しない、(子どもに調べてごらんと諭すくせに)ちょっと調べればわかることをすぐに訊ねてくる、(子どもに整理・整頓と口酸っぱく言うのに)自分の机周りは悲惨な状況、といったように、自分がそうできないことを児童生徒に求める輩がいなくはない、さらには少なからずいる。もし、そうだとすれば、先人の言葉になるほどと思わされてしまう。 おそらく、多くの習い事の指導者は、学び手に「こうやればいいんだよ」と手本を見せることができるのだろう。だから、それを励みに師範として、学び手は真似をしようとする(「まねび」)、にもかかわらず、真似られない学び手は、叱咤あるいは叱責される。これはまったく整合的だ。なぜなら、「自分のようになりなさい」と間接的に伝えているからこそ、真似のできないことが恥ずべきことであり、そのための努力を求めるからだ。 これに対して学校教育、なかでも義務教育学校において、教員は「よくわからないけれど、あれこれ叱る人」とは認知されても、「こんな風になりたい」というモデルにはなっていない。だから、モデルにしたがって自分の姿を変えたいと子どもは思うことができず、「自ら学ぶ」と自己完結型の話に終わらざるを得ない。教員が手本やさらには師匠になっていなからこそ、「自ら」が強調されるのだと見るのは、意地悪に過ぎるだろうか。 もっとも、学校教育の中であっても、芸術や体育系の教員は、手本の可能性を少なからず有している。「あんな風にできればいいなあ」と思われることは学びへの強力な誘いである。だから、当該分野の皆さんには、「どのように教えればよいのか」ではなく、「いかに自分がすごくて、憧れを抱かれるか」にぜひ傾注してほしい。 このように考えられるならば、直感ながら児童や生徒の反応はまったく的を射ている。「教員のようになりたい(ここで初めて、教員は先生となるのだ!)」と思わせられずにいながら、偉そうに振る舞うことは、忌み嫌われるほかないことを。 普通教育において憧れられる存在になるのは容易でないからこそ、「教える」とは一体、彼らとどのような関係を前提に、そしてどのような関係を作る上で問われることなのかを考える意味がある。この点で、問うべきは「いかに教えるか」よりも遙か先にあることだとわかるだろう。すなわち、「なぜ、児童生徒を前にして、自分が『教える』という立場で現れているのだろうか」を深めることが大切なことを。
by walk41
| 2013-08-17 22:31
| 身体
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