学校・教職員の現在と近未来 Gegenwart und nähere Zukunft der Schule und ihrer Mitglieder

私語にどう対応するか

非常勤講師として授業に出かけているところで、次のような文書が配られていた。曰く、学生の私語が著しいので、申し訳ないが毅然と対応してほしい、とのこと。

担当しているのは、教職の授業でもあるので、教育に関わる資料として学生たちにたずねる。この文書の文法は「私語には注意を徹底する」という表現で、「AとBという変数の関係」を示している、つまり、A…私語を注意する、B…私語がなくなる(あるいは減る)はずという論理だが、これは支持される仮説だろうか、あるいは棄却されるだろうか、それとも判断不能だろうか、と。

たとえば、榊原の授業で、いまペアで話をしているのは私語だろうか、とたずねる。学生たちはこれは違うと応える。じゃあ、問題になっている私語ってどういうこと? あるいは、そもそも何が問題なの? と「何気なく」つなげてしまいがちな文法すなわち論理を解きほぐし、違うものとつなげてみようと思えるかもしれない。授業者の問題? 人数の問題? 座席の問題? …と。

大学では議論の作法を学ぶことが、とりわけ初学者の課題だと思う。「手の冷たい人は心が温かい」「動物が好きでない人は優しさに欠ける」と、どんなお喋りにも「AとBの関係」が含まれている。そうでないもの、「AはAだ」(朝、ごはんを食べたら、朝食と言ってよい)」と同義反復を聞いても何も面白くないもの。

そして、AとBの距離(学生には論文指導の際に、飛び越えるべき「川幅」と言うけれど)があればあるほど面白い論理になる可能性がある。「貧困と肥満は正に相関する」「すぐに挙手するのはわかっていない証拠」などと言われれば、きっと驚くだろう。なぜって、それは「これまでの常識」とちょっと違うから。これが面白い研究につながるのであって、「まあ、そうやわなあ」では知的興奮を呼び起こさない。だからといって、素っ頓狂なことを言えば良いのではなく、事実を違う切り口から取り出して新鮮な見え方を提示すること、これが学ぶ喜びをもたらすのである。

さて、私語の話に戻ろう。この文面の限り、この大学は私語対策につながるような仮説を未だ持てていないように見える。「注意の徹底」で「静かになる」って、学生も教員も大学も変わらない、表面的なレベルを越えていないから。

私だったら、自分の授業を例にいくつか言えるけれどなあ。仮に大人数でも、ペアを作って、毎回、新しいペアにする。講義ではなく、テーマに即したボールを投げて、学生たちに考えさせる(聞かせるでは、寝てしまう)、考えたことをペアで意見交換する、紙に書く、交換させると活動を組み込む、授業と次の授業との繋がりが分かるように、学生の感想文を紹介するとともに、それを踏まえたレジュメを作る。シラバスはあくまでも目安と、その場で生まれる意見やアイディアを活かすライブに務める、学生に1時間あたりウン千円の授業であること、納税者の期待も込められていると浪花節を伝える-こんな感じで、けっこう対応できると思うんやなあ。私の授業を見にきてもらってもいいですよ。私語がないというか、いっぱい学生はお喋りをしているし、私もあちこち回って話をしていますが。
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by walk41 | 2013-10-24 19:51 | 授業のこと | Comments(2)
Commented by ポッピーママ at 2013-10-25 05:44 x
榊原先生、おはようございます。
小学校教師の論理力、当たり前のことを今一度見直してみようとする力、そういうものが必要なのだなぁと改めて思います。そして、これは、日本人全体に言えることなのではないかとも。
小学校英語教育が早まるだのなんだのと騒然としていますけれど、政策立案者が現場をあまりにも知らなさ過ぎて、驚きます。
Commented by walk41 at 2013-10-25 14:00
ポッピーママさん、こんにちは。今年は台風の当たり年、北海道にも達していますね。

人間の行動を支える二つの要素を、認知と感情とすれば、感情のマネジメントもある意味で重要ですが、それ以上に、民主主義を機能させるためにも、認知的なマネジメントに秀でることが大切でしょう。そこで不可欠なのが論理力だと私は考えるのですが、教員においても十分とは思われないことが少なくありません。

「共感」と情に流されるだけではなく、「納得する」「了解できる」ことにも力を注ぐべきでしょう。小学校英語についても、楽しい、おもしろいだけでなく、外語語で表現しようとすると、母語よりも論理的になりやすい、ということにも気づける機会にしてほしいなと思います。
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