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学校・教職員の現在と近未来 Gegenwart und nähere Zukunft der Schule und ihrer Mitglieder

実証に絶えない授業研究

九州で指導主事のみなさんと議論する。授業研究と教材研究との違い、授業の結果を検証するといったことについて。

その中で次のような例を引く。新薬が効くかどうかを確かめるために採られる方法は次のようだ。同様の患者さんたちを二分して、片方のグループには新薬を、もう片方のグループには偽薬を与えて、新薬を与えたグループに効果が認められ、そうでないグループには認められないという両方が確かめられて初めて、新薬に効果があるかもしれないという話になること。また、与える医療関係者の態度に患者が影響されないように、投与する側もどちらが新薬かはわからない状態で実験が行われる(二重盲検)こと。

この基準と比べれば、学校教育で議論される授業研究などまったく実証性がなく、ほとんど印象批評の域を出ない。〜したら〜となった、ことを証明するには、〜しなかったら〜とならなかった、ことを合わせて示す必要があるにもかかわらず、後者が確かめられることは、不公平だ、人権に関わるなどと理由付けされて、皆無に等しいからだ。

そもそも、同じような子どもが2グループいるという条件を満たすことが至難である。家庭環境、保護者の学歴、通塾率など、揃えようもない。

さらには、ある方法を教員が児童生徒に気づかれることなく、さらには教員自身が知らずに用いることはあり得ないから、実証しようという環境に最初から干渉することになり、ある方法の効果を独立して取り出すことに成功しない。

かくも無理無理づくしなのが、授業の研究というものである。こんな対象を実証しようとすること自体が、ハナから無茶なことは明確だろう。だから、授業について理解を進めたいのならば、授業の実証や検証とは異なる方向に向かわなければならない。私はそれを、授業像の収束ではなく拡散、極めるのではなく裾野を拡げる方向、客観性を追うのではなく主観性を前提に見方を交差させる方向、と提案している。

ありうるはずもない授業「研究」にこだわって、いたづらに資源と労力を失うことなく、やりがいのある楽しいものへと認識、論理、価値観を改めることが大切である。すでに多くの教員はそのことを直感的に気づいている。だから、研究主任になりたくないし、校内研修の時間を辛いと感じている。その直感をまずは論理化してみること、そのための学力が教員に求められているのだと思う。
by walk41 | 2013-11-25 19:05 | Comments(0)
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榊原禎宏のブログ(Yoshihiro Sakakibara Blog) 教育学の一分野、学校とその経営について考えます(um die Schule und ihre Verwaltung und Management)
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