議論に堪えない言葉
「中学校に警察、賛否」(毎日新聞、20140820)を読む。
教師の胸ぐらをつかむなどの暴行が中学生に相次いでおり、学校が警察を呼び、逮捕に至ったケースが今年ですでに5件あるという。 これに対して、「識者」と紹介される評論家の尾木氏がこう語っている。「生徒の評価権という絶対的権限を持つ教師が、さらに警察権力を使うのは安易ではないか。学校の自殺行為でとんでもない話だ。背景には教師の力量不足があり、他生徒への『見せしめ』もあるのだろう。心の琴線に触れるような指導をせずに、生徒が更正するとは思えない」。 彼の言葉を借りれば、こういう語りそのものが「とんでもない話だ」。少ない文字数でまとめられるほどの内容しかないにもかかわらず、まず現状認識に問題があり、また矛盾をはらんでいても、悩むことがないというのは、一つの「才能」ではないかとすら思えてくる。だから、マスコミに重宝されるのだろう。以下、解読しよう。 ①生徒の評価権が絶対的であれば、やんちゃな生徒といえども、教師の胸ぐらをつかむはずがない。つまり、絶対的な権限などないと(少なくとも生徒には)見なされている、と捉えるのが事実をより説明する。また、権限と権威を混ぜて話をする辺りも、問題をうまくつかまえることができない同氏を例示している。 ②学校の自殺行為とは、教えるべきことが教えられていない状況(教師の胸ぐらをつかむなど、してはいけないよと教育しなければならないのに、の意)を指してだろうが、警察という権力を例に、「君たち、大人に逆らうと痛い目に遭うよ」と教えることになる、すぐれて教育的な話と見ることもできる。これは、教員の説明だけでは伝わりにくいから、教具・教材を用いる、デジタル教科書を使う、外部講師の話を聴く、と類似する。教員たちが自分たちだけでは対応できないと判断すれば、警察を呼ぶのは一つの方略である。何が問題なのだろうか。 ③なんの根拠も示さずに「教師の力量不足」と言ってのける厚顔無恥さ。自分だけでは関係が決まらないという、対人関係の相互性を踏まえれば、学校という場が「聖性」を帯びていなければならないという、社会的な圧力が弱まっていることを指摘はできても(「モンスター保護者など)、教員の力量うんぬんを論じることは無理な話である。そもそも、力量が低下しているといったその尻から、「心の琴線に触れるような指導を」と言うのだから、無茶苦茶である。そういう指導ができなから、警察に頼っていると見るのが事実に対して整合的なのにもかかわらず。 ましてや、「昔の学校」ですら、「昭和3年(1928).3.6 富山県高岡市の県立高岡中学校で、5年生(満17歳前後)数人が卒業式の直後に教員室に押し入り、校長と教師1人を殴った。日頃から校長に素行を注意されていたのを怨み、卒業証書を持ったまま復讐したもの。卒業式の来賓が大勢いた前での犯行。3.9には高岡中学校卒業生数人が登校の教師1人を待ち伏せて殴ったが、教師は逆に殴り返して重傷を負わせて中学校に逃げ込んだ。」(少年犯罪データベース、戦前の少年犯罪、http://kangaeru.s59.xrea.com/senzen.htm)のあったことを知ると、教師の胸ぐらをつかむことがどれほどの問題なのかとすら思われてくる。 かくもいい加減なお喋りを、まちがっても「ご高説」と勘違いしないように。一見、勢いのある発言は注目されがちだが、丁寧に分析することで見えてくることがある。メディアリテラシーの問題でもあるだろうが、何となく鵜呑みにしない力をいっそう得るべき、と学ぶことができる。
by walk41
| 2014-08-21 20:20
| ことばのこと
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Comments(1)
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by
無力な教育者香菜子先生
at 2018-06-16 13:53
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はじめまして、香菜子といいます。私も無力な教育者の一人です。
昔から子は親を映す鏡という言葉があるけれど、教育者として数多くの子供たちの教育に携わってきた人間として言えることはその言葉は真実だということ。 我儘で自分勝手、自己中心的で自己顕示欲ばかり強い生徒はどこにも必ずいるけれど、それは生育環境によるもの。 そういった子の親や保護者も決まって我儘で自分勝手、自己中心的で自己顕示欲ばかり強いことが多い。 結局は解決策は見つからないことが多くて、教育者としての無力さを実感させられた経験ばかりです。
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