なぜ尋ねないのか
教育論はけっこう不思議なことに彩られている。その一つが、実践という名の行為の結果を、行為を働きかけられた相手に尋ねるのではなく、行為者が見とるという無茶、失礼を承知で言えば茶番を当然のことと見なしていることだ。
第一次産業・第二次産業では、行為の結果が採れた魚の量や使いやすい機械の出来栄えで評価される。自分が頑張ったからいいはずだとか、自分なんていやいや未だ未だ、と言おうが言うまいが、結果を眼前にすると、そうしたコメントは脇へと追いやられる。つまり、結果が第一義で、それ以外の意見や感想は参考程度に過ぎない。 これに対して第三次産業は、対人サービス労働を基本にするので、その業務の妥当性は、顧客の満足から導かれる。教育業務は、第三次産業の一部であるけれど、そもそも児童・生徒を顧客と捉えられるかどうかの時点で論争的、すなわち分からないので、その結果や業務の妥当性については、いわば宙ぶらりんにならざるをえない。 そこでは、第一次・第二次産業のように行為の結果を行為者が全面的に受け止めることができず、かといって、多くの第三次産業に当てはまるように、顧客の満足に評価の拠り所を求めることもできないので、(ここからは私の予想だけれど)なぜか、行為者の評価に委ねて構わないという恣意が強まってしまったのではないだろうか。 かくして、教育労働は、自身が導いた結果によって評価される訳ではなく、また、働きかけた相手に評価を委ねている訳でもない。ちょうどエアポケットのように、結果からも、また相手からも評価されない、なので自分で評価するという構図に収まっているのではないだろうか。 このように整理できるならば、授業をする、これを見る、その後お喋りをするという一連の流れがなぜそうなっているのかを説明できるだろう。授業をした結果がどうなのかを、生徒の様子から正確に把握することは難しい。彼らの出来栄えをどれだけ授業に帰属させられるか、見当がつかないからだ。 とはいえ、彼らの満足や充足感に授業の結果の根拠を見つけることも困難だ。授業で彼らは顧客というよりも、当事者として、より言うならば身内のメンバーとしての役割を求められているからだ。素朴に、授業者である教員を応援したいからそんな様子だったことも十二分にあり得る。「先生に協力したい」と。この反対に(少数だろうが)たとえ「授業を邪魔してやろう」と思われても、授業者にはどうしようもない。どうしようもないことを、授業者の力量や能力として扱われても困る。かくして、関係者の構図が説明されないままに、まあ訳のわからない「授業研究」がまかり通る。 ではどうしたらいいのか。せめて、生徒にきいてほしい。アンケートという名前の紙を介してではなく、聴き取りとして。彼らが授業で何を見つけ、何を感じたのか、なぜあのように振る舞ったのかを、やりとりを通じて尋ねてほしい。それさえも、十分とは言えない、当の生徒すら自分にとってこの授業は何だったのかを掌握できる訳でもないので。 それでも、当の生徒にお構いなしに「あの子は学んでいた」と勝手なラベリングをして悦に入っているよりはましだろう。本人に問いかけることなく、その傍でその人のことをとやかくいう振る舞いが、大人同士ならば失礼千万だということが、なぜか子どもについては適用されない理不尽を、少しでも回避すべきだから。
by walk41
| 2016-10-20 17:11
| 学校教育のあれこれ
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