学校・教職員の現在と近未来-榊原禎宏のブログ

教員就職率

この指摘は、おそらくどなたかなさっているだろうから、珍しいものではないと思う。けれども、およそ論理的に意味があるとは思われない数値が公表され、データとして一人歩きすること恐ろしさを感じるゆえ、強調したい。

文部科学省がまとめる「卒業生の大学別就職状況(教員養成課程)」がある。教員養成大学・学部関係者には馴染んだ、また頭の痛い数値だが、大学ごとに卒業生のうち何人、何パーセントが教員として就職したかを示している。大学単位に数値を並べ替えさせて、どの大学が教員就職に強いか、あるいは弱いかを噂話させ、大学の宣伝や「もっと頑張れ」メッセージの材料にしようというものだ。

このデータの問題は次の点にある。これだけ問題のある統計も、少ないのではないかと思う。

①データの括り方が不適切。ここでの教員としての就職は、学校の幼稚園、初等・中等教育学校の教員(養護教諭、栄養教諭を含む)として採用、および臨時的任用(病休、産休、育休などの代替教員等として任用)された場合を合わせたものである。たとえば、前者が6割、後者が1割の場合と、極端だが両者が逆の場合、意味はまったく異なるにもかかわらず、数値としては同率になる。ちなみに、ここで任用とあるが、任用とは公務員の場合のみ該当する行政用語、私立学校に採用された場合は含まれるのだろうか。

②資格取得と就職との区別がない。教員としての就職は、教員資格の取得とは別物である。たとえば、ドイツのように州政府が試験を行って教員資格を認定する場合は、試験が同一だから、その合格率を競うことに意味がある。日本では医師免許や看護師免許がこれに相当する。しかし、日本の教職課程は課程認定制度のもとでの「開放制」と大学での単位取得によって免許要件を構成するから、大学間の差異をなくせない限り、比べても意味がない。それを敢えて比べるのならば、大学入学者に対する卒業者(免許取得者)の割合を並べることは可能だろう。つまり、4年間でしっかり単位を取らせて卒業させた大学ほど優れているという評価である。けれど、はたしてこれは適切だろうか。

③就職者数は採用者数であり、変動する。②とも重なるが、教員への就職は、主として公立学校を人的に管理する都道府県と政令指定都市の教育委員会の採用数に依る。教職人口ピラミッドを大きな背景に、各年度の採用者数が決められるのであり、35年間ほどの年齢層を含む教員構成に対して、大学ができることはほとんどない。大学が頑張ろうと(逆に言えばそうでなかろうと)採用数の前にはどうしようもないからだ。景気が良くなれば卒業生の採用率は高まり、景気が悪くなれば低下するのと同様である。いずれの分野であれ、大学の努力が採用数に直結するわけではない。

ちなみに「○○大学は教員養成を熱心にされているので、無条件で○人は採用しましょう」といった、贔屓も見込めない。戦前の指定学校や許可学校の制度を復活させるならば話は別だが、大学間の平等性を前提にする限り、無理な相談である。

以上のような無茶をはらみながら、数値化され、もっともらしいデータとして跋扈することになる。「ウチは教員就職率○年続けて、上位三位に入っています」と高校生向けの宣伝に使われたり、「ウチは下から数えた方が早いくらいだから、教員採用試験を意識した授業に励むように」と教授会あたりで発言があるかもしれない。

こんな状況を放置して恥ずかしげない官僚主義の悪弊(一度決めると、簡単には変更しない)、あるいはこのデータの発案者と支持者の学力の低さに愕然とする。こんなものを比べても仕方ないやん。



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by walk41 | 2018-02-15 14:15 | 大学のこと | Comments(0)
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教育学の一分野、学校とその経営について考えます。
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