論理的でない言い回し
あまり根拠があるわけではないけれど、そう表現すると、周りからそうだそうだと声の上がる様子の感じられる言い回しがある。
「エリートは打たれ弱い」「一流大学を出てるからって頭がいいわけではない」といった類がこれに当る。恨み節と言うかルサンチマンと言うか、それを聞くと喝采を送りたくなるような言葉づかいである。 この表現は、溜飲を下げたいために急ぐせいか、同義反復(トートロジー)に似ているけれどちょっと違って、自分を否定するという点で特徴的だ。「富士山は山だ」「蛙の子は蛙」などは、AはAと意味はないが論理的に間違いではない。その意味で益もないが害もない。けれど、上のような例は、AはAではないと言っており、明らかに矛盾する。けれど、不思議なことに何となくそうだよなあ、って思う余地が生まれるのだ。 打たれ弱いのはエリートとは言えない、頭がいいわけでないのは一流ではないから、と、そもそもの言葉を疑い、言い直せばいいのだけれど、そこを端折ると、おかしな表現になる。もっとおかしいのは、そう話している自分を疑わない様子である。 ちなみに、教員も立場上、わかっているわけはないのにわかっているかのような振り、無理をしなければならないことがあるだろうが(だから、これからの時代、教員という言葉は消滅するのではないかと予想する)、AはAではない、という無茶な言い方をしていないか自身を点検してほしい。たとえば、「先生も間違うことがある」「先生も人間だ」と自己弁護するならば、あなたは先生ではない。感情に過度に流され、「だって人間だもの」と弱音を吐くのならば、冷静沈着でいるべき像としての「先生」などと自身を規定、また称しないことである。 あるときは教員然、そうではないときは友達然とするような様を「先生」という言葉で括る、私に言わせれば言葉を弄んでいるから、中途半端な立ち位置になる。だから、何度でも言う。間違っても自分で自身のことを「先生は…」と言わないと戒めるべきである。ある場面を指して、他者が先生と呼ぶのはありうる。けれど、自分で自分を先生と語ることの大きな問題は、自分を疑わなくなることだ。自分を疑わない人間の恐ろしさは、否定的な出来事を自分以外に帰属させること、つまり「こうなったのは、○○のせい」と思い込んでしまうことである。自分を反省できず、革新することができない人間が、どうして人様の前に偉そうに立つことができるだろうか。 公教育の課題は、何も政策や行政、制度のあり方によってのみ、もたらされるのではない。それは、児童・生徒に一番身近にいる「先生」という大人のいい加減さによっても生じるものである。自分を疑わない人間が、何の根拠も定義もないのに、身勝手に自分で自分を「先生が…」と語るというおぞましいことが、今日も各地で起こる。「先生の言うことが聞けないのか」「先生はあんたたちと違うんや」「それは先生が決めます」って。「あんた、いったい、何様やねん」という、声にならない児童・生徒のつぶやきや叫びが聞こえるだろうか。
by walk41
| 2018-03-22 15:44
| ことばのこと
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